報道番組やビジネスドラマなどを見ていると、「第三者に株式を大量に取得され、会社が乗っ取られる・・・」なんてお話を耳にすることがありますよね。
そしてこんな話を聞くと、会社にお務めの方であれば「自分の勤め先がそんな憂き目に遭わなければ良いが・・・」なんて不安を感じることもあるでしょうし、これから起業を目指す方については「しっかりと防衛手段を講じなければ・・・」といった想いにも駆られることでしょう。
そこで本日は「会社の議決権とは?わかりやくす解説致します!」と題して、株主の権利や議決権についてご説明をさせて頂きたいと思います。
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議決権って何だろう?
ではまず最初に、そもそも議決権とは一体何なのかという点からお話を始めて行きましょう。
「議決権」とは、その字が示す通り「会議などに参加して、議案に対して可否を述べる権利」を指すこの言葉ですが、会社経営の場においては『企業の意思決定に係わる権限』という意味で用いられることになります。
なお、過去記事「会社の種類の比較と解説をお届け致します!」では、現在、我が国の法律で設立することが出来る4種類の会社(合名会社・合資会社・合同会社・株式会社)を紹介したしましたが、これらの組織においても出資者(持分会社の場合は「社員」)が議決権を与えられ、会社の方向性を定めて行くのがルールとなっています。
但し、持分会社に分類される「合名会社」「合資会社」「合同会社」の3種類については、原則として『誰がいくらお金を出しているかに係わらず、議決権は社員一人あたり一議決権』と定められているのに対して、株式会社では出資者が保有する株の数によって議決権の強さが変わって来るという仕組みになっているのです。
※持ち分会社でも、約款において特別な取り決めを行えば、出資した額(持分)に合わせた議決権の行使が可能となります。
よって株式会社においては、多く株を持つ者ほど会社経営に対する発言権が強くなることとなり、保有する議決権の数次第では「役員(代表取締役を含む)の選任」から「会社の解散」に至るまで、自由に決定することが可能となるのです。
株式会社と株
前項に解説にて、株式会社の議決権が保有する株の数によって決定される旨はご理解頂けたことと思いますが、本項では株式会社と株の関係について、もう少し掘り下げたご説明をさせて頂きたいと思います。
株と資本金との関係
会社を設立する場合には、発起人(会社を立ち上げる者)が資金を提供し、これと引き換えに議決権を得ることになりますが、株式会社の場合には出資額に応じて『株』を渡すことで「議決権の引き渡し」が完了することになります。
そして会社が受け取った出資金は、資本金や資本準備金として会社に貯えられることになるのです。
資本金という言葉は、誰でも一度は耳にしたことがあるかと思いますが、その意味合いは「会社が有する純粋な資産であり、会社の信用を担保するための資金」ということになるでしょう。
設立されたばかりの会社ですと、対外的な信用を得るのはなかなか難しいものですが、ある程度の資本金が用意されていれば、「これだけ資力がある会社なら、信頼出来そうだ」という判断を受けることが可能となる訳です。
なお資本金はこうした性質上、会社の経営が苦しいからと言って、自由に引き出して、借入の返済などに使用することは出来ないルールとなっており、これを取り崩すには債権者への保護手続きなどを経なければなりません。(資本金を当てにしてお金を貸した相手の信頼を裏切らないための措置が必要となる)
ただ、会社を経営して行く上では、どうしても自由に動かせるお金が必要でしょうから、こうした際に利用される資本準備金と呼ばれる資産となります。
こちらの資本準備金は資本金とは異なり、会社の意向で自由に使用することが出来る上、「設立時に集めた出資金の内、その1/2についてはこの資本準備金として構わない(残りの1/2は資本金としなればならない)」という規定が会社法に定められていますから、出資金をどんな割合で資本金と資本準備金に分配するかが、会社設立時には大きな問題となって来るのです。
因みに、自分が出資した資金が資本金・資本準備金のどちらに割り振られようとも、出資した金額分の株は受け取ることが可能です。
また会社設立後、資金調達のために新たな株式が発行されりこともありますが、ここで得た資金は必ずしも資本金の増加に充てられる訳ではありません。
議決権を持たない株
こうして会社の設立や、新たな資金調達を目的に発行される株式ですが、実はその全てに議決権が含まれている訳ではありません。
本項では、こうした議決権を持たない株について、ご説明をして参りましょう。
自己株式
株式が公開されることになれば、実に様々な者たちがこれを保有することになりますが、株を取得出来るのは個人だけとは限らず、法人がこれを保有することだって珍しくありません。
そして更には、自社の株を会社自体が保有しているケースもあるのですが、こうした株(これを自己株式と呼びます)に議決権があると、代表取締役をはじめとする役員たちが、自分たちの意見を通したいがばかりに、この自己株式の議決権を悪用する可能性も出て来ますよね。
こうした事態を回避するべく、「自己株式は議決権を行使できない」との定めがなされているのです。
相互保有株式
前項にて、法人も株主となっているパターンがある旨をお話し致しましたが、法人同士で互いの株を持ち合っている場合には、その議決権を行使出来ないケースがあります。
法人同士が互いに株を持ち合っていれば、2社間の繋がりは非常に強いものとなるはずですが、これが悪用されると一般の株主の意向が経営判断から排除されてしまいかねません。
そこで、一方の会社が25%(1/4)以上の議決権を持っている(実質、経営の支配権を握っている状態)場合には、例えもう一方の会社が相手の会社の株を保有していても、議決権を行使出来ないルールとなっているのです。
例えば、A社がB社の議決権25%を持っており、B社がA社の議決権10%を持っている状態ならば、A社は25%の議決権を行使出来るが、B社は議決権なしという状態になる訳です。
そして仮にB社が株を買い増し、A社とB社が互いに25%の議決権を持ち合ったとすれば、両者は共に株の議決権を失う結果になります。
単元株に達しない株式や議決権制限株式
会社法では、原則として1株に対して、1つの議決権がある旨を謳っていますが、この定めは会社が定める定款によって変更が可能となっています。
よって、仮に「10株保有すれば、議決権が1」という定めがなされているならば、9株しか保有していない者は議決権が行使出来ないことになるのです。
また、会社は定款において、発行する株式について一定の制限を加えることが許されています。
例えば「今回発行する株式は、役員の選任について議決権を行使できない」なんてルールを定めていれば、株主はこれに従う他はない訳です。
特別な利害関係のある株主の株
こちらは「常に議決権を持たない株」という訳ではありませんが、株主総会で扱われる議題に対して、特別な利害関係を有する者は議決権を行使できない場合があります。
例えば、大株主である代表取締役が「自分の役員報酬をアップさせよう」なんて議題の時には、代表取締役は議決権が行使出来ない訳です。
なお、こんなお話をすると「社外の大株主が自分の利益のために、会社の経営に口出しするのも禁止なの?」なんて疑問を持たれるかもしれませんが、こうした状況では特別利害関係者とは判断されませんのでご安心下さい。
但し、「自分の株を会社に高額で買い取らせる」といった直接的な利害関係が発生する場ケースでは、議決権を失うことになりますから注意が必要です。
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株主の議決権
ここまでの解説をお読み頂ければ、株式会社と株式の関係をある程度ご理解頂けたことと思いますので、ここからはいよいよ「どれだけの議決権があれば、如何なる権利を行使出来るのか?」という点について、ご説明をして行きましょう。
1議決権以上(主なもの)
- 配当を請求する権利(残余財産分配請求権等)
- 株主総会に議題を提案する権利(議案権)
- 定款や株主名簿等の閲覧請求
- 訴訟を起こす権利(株主代表訴訟提起権等)
※請求する権利はあるが、配当を行うか否かは株式総会の決議による。
※但し、好きな議題を提起出来る訳ではなく、既に総会で話し合われることが決まっている事項についてのみ。
※役員が会社に損害を与えるなどの行為が発生した場合などには、株主に訴訟を起こす権利が発生します。
議決権3%以上(主なもの)
- 役員の解任を請求する権利(解任請求権)
- 帳簿の開示を求める権利(帳簿閲覧請求権)
- 株主総会の開催を求める権利(総会招集請求権)
議決権10%以上
- 会社の解散を請求する権利(解散請求権)
議決権33%以上
総会特別決議に対する単独阻止権特別決議の主な事例は以下の通りとなります。
- 株式合併
- 定款の変更
- 監査役の解任
- 会社の解散
- 事業の譲渡
議決権50%以上
総会普通決議に対する単独阻止権普通決議の主な事例は以下の通りとなります。
- 役員の選任
- 役員の解任
- 役員の報酬決定
- 株主総会の議長決定
- 余剰金の配当
議決権50%超
総会普通決議に対する単独成立権議決権66%以上
総会特別決議に対する単独阻止権スポンサーリンク
会社の議決権とは?まとめ
さてここまで、株式と議決権というテーマでお話をして参りました。
報道番組などを見ていると「企業買収」のニュースを時折目に致しますが、今回取り上げた会社法の知識があれば、こうした情報について「これまで以上に理解を深める」ことが出来るはずです。
また投資目的で株を保有している方の中には、株主総会の通知が来ても「目を通すことなくゴミ箱に捨てる」という人も多い様ですが、「自分も出資者の一人」という自覚を持つことが出来れば、株取引に対する姿勢も自ずと変わって来ますよね。
なお、これから会社を設立するに当たって、出資者を募ろうとお考えの方につきましては、前項の議決権の解説を見ても判る通り、最低でも50%以上はご自身で株を保有しておく必要があるでしょう。
因みに「出資を募る先は親族や友人なので、あまりリスクはないはず・・・」なんてお考えの方もおられるかもしれませんが、年月が経てば株は相続などで様々な人々に受け継がれていくものですから、くれぐれも注意を怠らない様にご注意頂ければと思います。
株式の発行は、資金調達を行う上で非常に有効な手段となりますが、メリットの裏には必ずデメリットが存在していることを忘れることなく、ご商売に勤しんで頂ければと思います。
ではこれにて、「会社の議決権とは?わかりやくす解説致します!」の記事を締め括らせて頂きます。
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