正当防衛と緊急避難

 

「どうせ人生を歩んで行くのなら、幸せで平和な毎日が過ごしたい!」と願うのは当たり前のことですよね。

しかしながら日々の生活を送っていると、時として交通事故に巻き込まれたり、怖い人に絡まれたりなどのトラブルに巻き込まれることもあるものです。

また最近では、電車の同乗者や通行人に突然襲い掛かり、「むしゃくしゃしてやった、誰でも良かった」なんてとんでもない動機を語る犯罪者も増えていますから、平凡な毎日を過ごす私たちも「気を抜いていられない状況」になりつつあります。

そして、こうしたリスクから身を守るためには、いざという時に自分で自分の身を守るれるセルフディフェンスの技術を身に付けるのがベストなのですが、自分では正当防衛のつもりだったのに過剰防衛と判断されてしまったり、酷い場合には傷害罪や殺人罪に問われてしまうこともあるのです。

そこで本日は「正当防衛と緊急避難についてわかりやすく解説致します!」と題して、自身の身を守る際の法律知識をお届けして行きたいと思います。

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正当防衛・緊急避難とは?

ではまず、正当防衛と緊急避難という観念からご説明を始めて参りましょう。

正当防衛という言葉は、テレビのサスペンスものなどで耳にすることも多いことと思いますが、自分自身を守るために他人を傷付ける行為を指すワードとなります。

一方、緊急避難という言葉は聞き慣れないかもしれませんが、緊急事態が発生した場合に他人を押しのけて逃げたり、他人の家に逃げ込むなどの行動を指すワードです。

そしてこれらの行動は、法律上、違法性阻却事由(通常であれば違法だが、緊急の場合は罪に問われない理由)として解釈されています。

因みにこの正当防衛や緊急避難に関しては、刑法の37条1項に定められており、条文は以下の通りです。

「自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。ただし、その程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。」

なおこの条文、サラリと読むと「緊急事態なら何をしてもOK」とも読めてしまいますが、実際に正当防衛や緊急避難が認められるには様々な要件が存在しており、これを満たしていないと冒頭でもお話しした過剰防衛や傷害罪に問われてしまうことになるのです。

正当防衛・緊急避難の要件

そこで本項では、「どんな要件が整えば正当防衛等が認められるのか?」という点について解説して参りましょう。

先にご紹介した条文にじっくりと目を通してみると、

  • 自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する
  • 現在の危難
  • やむを得ずにした行為

という3つの重要なワードが浮かび上がって来ます。

そして、この3つの条件を満たしていることこそが正当防衛・緊急避難成立の要件となって来るのです。

自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する

まずここでは、危険に晒されている対象に関する定義が行われています。

よって人命に係わる事態(自己又は他人の生命)、怪我等をする危険がある事態(身体)、誘拐などの事態(自由)、お金などを盗まれる事態(財産)などについては、正当防衛・緊急避難が認められる可能性があるということです。

但し、実際の判例を見ても、財産よりは身体、身体よりも人命と、危険に晒される対象によって「認められやすさ」に違いがある点には注意が必要でしょう。

現在の危難

さて続いては、危難の状況についてとなりますが、条文には「現在の」危難である必要があると書かれています。

つまり、「相手が襲い掛かって来たから反撃した」「相手に切り付けられたから、民家に逃げ込んだ」というのであれば問題はありませんが、「相手に襲われた後に、腹が立って殴りに行った」「切り付けた相手は去ったが、怖いからとりあえず民家に上がり込んだ」なんていうのは認められないのです。

やむを得ずにした行為

そして最後にご紹介するのが、具体的な行為の内容となります。

読んで字の如く「止む無し」な行為しか認められませんから、武器を持っていない一人の相手に集団で襲い掛かる行為や、お金を要求して来た相手に対して、他人の財布を奪って金を払うといった行動は認められない訳です。

 

ここまでの解説で、正当防衛・緊急避難と認められる要件はおおよそご理解頂けたことと思いますが、「いざとなった際に本当に判断が付くか?」と問われれば、まだまだ不安が残るはずですし、

実は同じ正当防衛・緊急避難でも刑法バージョンと民事バージョンの2つのパターンがありますので、以下の項ではこの辺りを更に掘り下げてみましょう。

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刑法上の正当防衛と緊急避難

刑法における正当防衛や緊急避難と言えば、襲い掛かって来た相手に防衛目的の反撃を行い、怪我をさせてしまった場合や、暴漢に襲われて他人の家に許可なく逃げ込むなどの等の行動がこれにあたりますが、状況次第では正当防衛等の要件を満たさないパターンも出て来ます。

そして、その最たる例とも言えるのが「過剰防衛」と判断されてしまうパターンです。

例えば年配の方が素手で殴りかかって来たのに対して、近くに置かれていた自転車を持ち上げて投げ付けるような行為は、明らかに過剰防衛と判断されるでしょう。

なお、過剰防衛と判断された場合には違法性阻却事由とは認められませんので、傷害罪などに問われる可能性が出て来ますが、状況次第では若干罪が軽くなる場合もあります。

因みに例え素手での反撃であっても、自分に武道の心得がある場合(空手や柔道の有段者)や、相手が子供や女性の場合には、反撃の仕方によっては過剰防衛の認定を受ける可能性もあるでしょう。

一方、一度相手に襲わてた経験があり、「次の襲撃に備えて武器の準備をしていた場合」はどうなるのでしょうか。

判定を紐解いてみると、こうした武器の準備が「相手を傷つけてやろう」という意思の現れと判断され、正当防衛が認められなかったケースが殆どとなりますので、この点はお気を付け頂ければと思います。

また、女性の方の中には護身用に催涙スプレーやスタンガンなどを持ち歩いておられる方もおられるでしょうが、そもそも警察に職務質問を受けた場合には軽犯罪法違反の罪に問われる可能性がありますし、実際に暴漢に対して使用した場合でも状況次第では過剰防衛と判断される可能性があります。

更に正当防衛においては「武器対等の原則」というものがあり、相手が素手なら、反撃する側も素手、相手が鈍器なら、こちらも鈍器と言った具合に、同じレベルの武器を使用することが、正当防衛と判断する際の重要な要素となっているのです。

よって相手が年配者などの場合には、スタンガン等の使用には十分な注意が必要となるでしょう。(護身用武器を使用しなければ危機を脱することが出来ない状況であることが、正当防衛成立の判断の基準となります)

さて、ここまでは言われもなく身に降り懸かって来る脅威に対するお話でしたが、我々が直面する揉め事の中には、多少なりとも自分に責任があるパターンも存在します。

例えば自ら相手を挑発して、殴られ、殴り返したなんて場合(相互挑発)には正当防衛は成立するのでしょうか。

実はこうしたケースでも、正当防衛は認められるというのが裁判所の判断です。

そして、口論がエスカレートして単純に喧嘩に発展した場合についても、判例は正当防衛を認めていますから、原因に係わらず「あくまで身を守るための措置」であれば、罪に問われることはないという判断になります。

但し、挑発の行動自体が暴力的だった場合(頬をペチペチ叩きながらの挑発)などでは、正当防衛が認めらえる可能性は非常に低くなりますので、こうした行いはやはり慎むべきでしょう。

ここまでのお話しで、正当防衛についてはおおよそご理解頂けたことと思いますが、これが緊急避難となると事情は少々変わって来ます。

暴漢に襲われ、逃げるために他人の敷地に侵入するといった行為が住居侵入罪等に問われる可能性は低いでしょうが、逃げようとして他人を突き飛ばし、結果怪我を負わせてしまったケースなどでは、そう簡単に違法性阻却事由とは認められないはずです。

よって緊急避難にて他人に怪我を負わせた場合には、「そうする以外に自分が助かる方法がない」という正当防衛以上に厳密な要件が加わることになるのです。

民法上の正当防衛と緊急避難

では続きまして、民法上の正当防衛と緊急避難について解説を行って参ります。

正当防衛や緊急避難について定めた条項は、ここまでお話しした通り、刑法の中にその定めがありますが、民法にもその効力は及ぶものと解釈されるのが通常です。

例えば身を守るために他人に怪我をさせ、刑法上正当防衛が成立しているのに、その後親族から損害賠償請求を起こされ、慰謝料を払わせられるのでは、少々話の辻つまが合いませんよね。

よって、通常であれば民法における不法行為責任が認められるケースでも、刑法上の正当防衛や緊急避難の要件が満たされていれば、責任を追及されることはないはずなのです。

※但し、実際に民事訴訟を起こされた場合には、別の裁判官が最初から審議を行うため、可能性は僅かですが、刑事訴訟と異なる判断が下る可能性はあります。

また刑事事件とは絡まず、民事事件単体で正当防衛や緊急避難が裁判にて扱われる場合もあるでしょう。

例えば、狭い私道内に勝手に自動車を駐車され、私道の奥に住む者が通行出来ず、レッカー移動を行ってしまい、自動車の所有者から損害賠償請求を受けた場合などがこれに当たります。

この例で言えば、日常生活が脅かされるレベルの事件が起きている訳ですから、通常は正当防衛が認められることになりますので、刑法に比べると要件のハードルはやや低めとも言えるはずです。

しかしながら、暴漢に襲われて他人の家の庭に逃げ込み(刑事上の緊急避難)、勢い余って庭の盆栽を破壊してしまったというケースでは、盆栽に対する損害賠償請求が認められる可能性が高いですから、一概に民法上の正当防衛・緊急避難が成立しやすいとは言えない面もあります。

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正当防衛・緊急避難まとめ

さてここまで、正当防衛や緊急避難についての解説を行って参りました。

サスペンスドラマなどでは、「あれは正当防衛だった・・・」なんてセリフが普通に飛び交っていますが、現実の世界ではそう簡単に認めてもらえないのが実情である様です。

なお、こうした法律知識を身に付けると、いざとなった時も思わず色々と考え込んでしまいそうですが、まずは無事に危機を乗り越えることが一番重要となりますから、時には本能のままに行動することも重要かもしれません。

また、「三十六計逃げるに如かず」という言葉もある通り、様々な意味でリスクを回避するには『逃げる』という行動も非常に重要なものとなりますから、護身術を習うのと同時に、逃げ足を鍛えることも必要であると思われます。

ではこれにて、「正当防衛と緊急避難についてわかりやすく解説致します!」の記事を締め括らせて頂きたいと思います。

 

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