交通事故の同乗者への責任

 

交通事故を起こした場合、その被害者に対して加害者が責任を負うのは当然のことですよね。

こちらが自動車を運転していて、歩行者に怪我を負わせてしまったケースなどでは、被害者が泥酔して赤信号を無視した等、特段の事情がない限りは運転者が責任を負うのは「止むを得ない」ことと思います。

ただ、もしその車に友人を乗せていて、衝突のショックで同乗者の友人が怪我をした場合、これも運転者の責任となるのでしょうか。

この点に関しては、皆さんのご意見も分かれそうですよね。

そこで本日は「交通事故の同乗者への責任について!」と題して、この疑問について解説してみたいと思います。

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好意同乗者への責任

法律上では、冒頭で述べた様な事故車両に乗り込んでいた同乗者を「好意同乗者」と呼びます。

「好意」というと、まるで恋愛感情があるかの様に聞こえるかもしれませんが、ここでは「運転者が好意で乗せて上げた同乗者」という意味です。

実はこの好意同乗者の問題については、学説上、様々な議論があります。

分別のある大人であれば、車に乗せてもらう段階で「事故に巻き込まれる危険を察知しており、それを承知で乗り込んだはず」という見解も、それなりの評価を得ている模様。

しかしながら、「学問上の議論」と「訴訟で下される判決」が常にリンクする訳ではなく、実際の判決においては「殆どの場合、運転者は好意同乗者に対して責任を負うべき」との見解が示されています。

こうした判決の根拠となっているのは、過去記事「交通事故の所有者責任について!」でも登場した自賠法の3条であり、ここに謳われる「他人」の中には好意同乗者も含まれるとする考え方です。

では実際、どの様なケースで好意同乗者に対する運転者の賠償責任が認められているのでしょうか。

次の項では具体的な事例を見て行きたいと思います。

 

こんなケースでも責任を問われた!

では早速、「どの様なケースで運転者の責任が問われたか」について見て行くことにしましょう。

 

同じ方向に帰る同僚を送迎

仕事帰り、家の方向が同じである職場の同僚を送って行った際、事故を起こしてしまったケースとなります。

裁判所は基本的に、好意同乗者への運転者の損害賠償責任を認めるスタンスとなりますから、このパターンなら確実に賠償責任を負うことになるでしょう。

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家族とドライブ

自分の奥さんや子供をマイカーに乗せ、ドライブなどに出掛けるのは極当たり前の光景となりますが、こうしたシーンで事故を起こした場合も運転者は賠償責任を負います。

「自分の旦那に損害賠償なんて求めない!」と思われる方も多いでしょうが、夫に責任を追及しなければ、怪我の治療に要した入院費や後遺症が残ってしまった際の負担を、全て自分で負うことになるのが現実です。

そして多くのドライバーは保険に加入しているはずですから、妻が被害者となり、夫が加入する自賠責保険から保証を受けた方が、家族全員にとってプラスとなるのは明らかでしょう。

こうした事情から、事故車両に乗り込んでいた妻を「他人とするか、否かに」ついての訴訟は、最高裁まで争われることになりますが、結果的に裁判所は「妻への賠償責任を認める判決」を下しているのです。(但しこれは自賠責保険のケースであり、任意保険での家族の怪我は免責事項となります)

このケースからも判る様に、例え相手が身内でも運転者は賠償責任を逃れることが出来ませんから、親戚や親友という親しい間柄の者を乗せていても、運転には細心の注意を払わなければなりません。

 

停車中の事故でも賠償責任

こちらは少々レアなケースとなりますが、デート中のカップルが海辺に車を停車していた際、サイドブレーキが外れ、海に転落したという事故でも、裁判所は運転者の好意同乗者に対する賠償責任を認めています。

更にこの件では、両名共に亡くなっていますが、それでも運転者には賠償責任があると判断されているのです。

また、駐停車禁止の場所に自動車を止めている際に、後ろから追突された場合については、駐車禁止違反をしている被害者車両にも「過失あり」との判断が下されます。

そしてこの様な場合、追突された方の同乗者は当然加害者に対して損害賠償を請求出来ますが、車を停車していた運転者に対しても「共同不法行為」があったとして「賠償を求められる場合」も有るのです。

もちろん運転者が友人であった場合には、こうした請求を行う方は少ないでしょうが、重篤な怪我を負い、追突した側の車両が無保険であった場合などには、こうした請求を受ける可能性も無くはありませんので、注意が必要となるでしょう。

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好意同乗者まとめ

さてここまで、交通事故と好意同乗者の関係について解説して参りました。

あくまで「好意」で車に乗せた相手に、運転者が賠償責任を負うのは、何となく納得の行かないものがありますが、被害者保護を最優先に考える自賠法の主旨を考えれば、これも致し方ないことなのかもしれません。

また、同乗する家族が怪我を負ってしまった場合などを考えれば、この法解釈によって保険金給付を受けることが出来、結果的に家族が救われるケースも充分に考えられますから、実にありがたい側面を持っていることも事実でしょう。

但し、夫婦で同乗中に事故を起こした場合でも、車の名義が夫婦の共有だったりすると、相手方(妻や夫)に損害賠償の請求が出来ないケースもありますし、交代で運転していたケースや、運転手が酒を飲んでいるのを承知で乗り込んだ同乗者に対しては、30%~50%もの過失責任を認め、賠償額が減額されることもありますから、その点についてはご注意頂ければと思います。

ではこれにて、「交通事故の同乗者への責任について!」の記事を締め括らせて頂きます。

 

 

参考文献

(有)生活と法律研究所編(2015)『交通事故の法律知識』自由国民社 368pp ISBN978-4-426-11950-8

 

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