いつ何時、自分自身の身に降り掛かって来るかもしれないのが、訴訟という厄介事ですよね。
日本の司法制度においては、「原則裁判所は起こされた訴えを拒むことが出来ない」とされていますから、こんなお話を聞くと何やら恐ろしい気持ちにもなって来ます。
またこれとは反対に、誰を訴えようと考え弁護士に相談したのに、「その内容では裁判を起こせない」と断られたという経験をお持ちの方もおられるはず。
「裁判所は断れない」のに、弁護士は「訴えを起こせない」というのは、何やら矛盾している様にも思えますよね。
そこで本日は「訴訟が却下されるのはどんな場合?」と題して、訴訟を起こせないのはどの様な場合なのかを解説してみたいと思います。
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門前払いされるケース
ではまず、冒頭で申し上げた「矛盾点」に対する答えからご説明して行きたいと思います。
確かに日本の司法制度では、裁判所は起こされた訴訟を断れないルールになっていますが、ここには「最低限の基準をクリアーしていれば」という前提が付くのです。
つまり、客観的に判断して、訴訟が成り立つ要件さえ備えていれば、その内容に係らず裁判所は訴訟の受付を拒めないということになります。
では、訴訟の要件を満たしていないケースとはどの様な場合なのでしょうか。
その代表的なパターンをご説明して参ります。
当事者としての資格・能力がない場合
民事訴訟の場合、「裁判を起す側」と「起こされる側」という裁判の主役の存在が必須となります。
もちろん裁判を起こす側が、相手は「この人」と指定して来ますから、相手が居ないというケースは少ないでしょうが、時には「起こされる側の人間」に裁判の相手となる資格や能力がない場合もあるのです。
例えば、毎朝電車で見掛ける「ある人物」の顔が気に食わないから、賠償金を払えと訴えを起こしても、相手方を「被告」として裁判を起こすのにはあまりに無理がありますから、当然こんなケースは却下となるでしょう。
もっと身近なケースで言えば、友人に紹介されたA君とお金の貸し借りをしたところ、返済してもらえないので、A君ではなく紹介した友人を相手に訴訟を起こすなんてパターンも、「相手が当事者ではない」と判断されるのです。
この様に、訴訟を起こす相手側に当事者としての「資格と能力があるか」という点は、裁判所が訴訟を受け付ける大きなポイントとなって来ます。
なお、訴訟の相手が「認知症の方」だったりした場合も「当事者としての能力がない」となってしまいそうですが、こうした場合には後見人や特別代理人といった、本人に代わる当事者を相手取っての訴訟が可能となりますから、その点はご心配無用です。
当事者としての資格が無くなった場合
これは裁判が始まってからのこととなりますが、訴訟の途中で相手方が「当事者の資格を失う」というケースも考えられます。
「そんなことがあるの?」というお声も聞えて来そうですが、無くはありません。
例えば、自分の親を相手に財産の引渡しを求める裁判を起こしても、自分以外に相続人がおらず、親が亡くなれば、財産は自動的に相続される訳ですから、訴訟は成り立たなくなります。
また、ある会社を相手に解散を迫る請求をしている途中で、会社が倒産すれば、これも当事者としての資格を失くしたことになるでしょう。
頻度としては多くはないでしょうが、訴訟が却下される可能性は充分にあるのです。
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請求内容に問題がある場合
次に挙げるのは、訴えを起こす側が求める請求に無理がある場合です。
例えば、自分に無礼な行いをした相手に「謝罪を求める」といった請求は原則認められません。
また、「別れた恋人に付き合っていたことを認めさせる」なんて訴えも却下となります。
因みに民事訴訟において、「相手に行う請求」については基本的に3つの分類が存在し、これに則したものであることが求められるのです。
給付訴訟
最も件数が多いのが、こちらの分類となるでしょう。
相手の行為によって自分が被った損害を、金銭支払や物品等の受け渡しにて解決しようという方法です。
例えば、相手の責任によって起こされた事故に対する慰謝料などを求める裁判がこれにあたるでしょう。
なお、この項の最初に挙げた「謝罪を求める」とった場合には、『謝罪するまで毎月●万円支払うよう求める』といった給付訴訟を起こせば、目的を達成することが出来るはずです。
確認訴訟
そして次にご紹介するが、「確認を求める」という確認訴訟となります。
「確認なんてしてどうするの?」というお声も聞えて来そうですが、こうした訴えは意外に多いもの。
例えば、車を友人に貸したつもりが、「これは自分のものだ」なんて主張されてしまった際には、「車の真の所有者が誰であるかの確認」を求める訴えを起こす必要が出て来ます。
また、「あげる」と言われたお金を「こちらは貸したつもりだったから、返済しろ!」なんて言われた時にも、「借金でないことの確認」が必要となる訳です。
形成訴訟
この分類が一番解り辛いかと思いますが、「権利関係の変動」等を求める裁判となります。
身近な例で言えば、離婚裁判などがこれに当たり、「夫婦であることを解消する」という権利変動が訴訟の目的となるのです。
この様に、訴訟によって請求する内容には基本的な分類が存在していますから、これから逸脱した請求は、裁判所も「受理できない」ということになるのです。
二重起訴の場合
次にご紹介するのが、二重起訴であった場合のパターンとなります。
例えば、同じ相手に、同じ事件で重ねて損害賠償を請求するといった訴訟は原則として認められていません。
確かに同じ件で何度も訴えられたのでは、相手方も困惑してしまうでしょうし、裁判所にもそんな暇はないのです。
例え異なる裁判所に訴えを起こしても、他の裁判所で訴訟中の事件に関しては却下されるのが原則。
なお、同じ事件として判断するか否かについては、裁判所に一任されていますから、これは裁判所の判断に従う他はありません。
その他の理由がある場合
ここまで挙げて来たものが、訴訟を起こす際の主な要件となりますが、ここでは例外的な訴訟却下の事例を挙げてみたいと思います。
特約がある場合
契約書などで良く見掛けるのが「特約」と呼ばれる条項となりますが、実はこの特約は「相手方と特別に合意した約束」を意味する言葉で、『他の法令よりも強い拘束力を持った約束』として扱われます。
よって、友人との約束事などに「互いに訴訟はしない」なんて書面を交わしていれば、訴えを起こしても却下されてしまうことがあるのです。
もちろん、相手方が法人であった場合などは、消費者保護法によって無効を主張出来る場合もありますが、個人間でありお互いの合意で結ばれたものであれば、特約が優先されることになります。
破産などの場合
お金を貸した相手が破産手続きをしてしまった場合などが、これに当たります。
破産は法律で認められた行為となりますから、破産の手続きを行っている相手に対して、貸したお金を請求するといった訴えは却下されることのなるのです。
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訴訟却下まとめ
さてここまで、例え訴えを起こしたとしても、裁判所の判断で「門前払い」されてしまうケースについて、ご説明して参りました。
海外の法廷ドラマなどを見ていると、「勝ち負けを別にすれば、どんな訴えでも裁判自体は可能」といったイメージを持ってしまいがちですが、実際にはなかなか難しものがあるようです。
但し、一見不可能と思われる訴訟でもアプローチの方向を変えると認められるケースも多いですから、困った際はプロの法律家に相談するのがおすすめでしょう。
ではこれにて、「訴訟が却下されるのはどんな場合?」の記事を締め括らせて頂きたいと思います。
参考文献
藤田裕監修(2015)『図解で早わかり 最新版 訴訟のしくみ』三修社 256pp ISBN978-4-384-04643-4
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