近年、家庭内の深刻な問題として取り沙汰されているのが「虐待」に関する問題です。
但し、一言で家庭内の虐待と言っても、その対象は子供からお年寄りまで様々ですし、虐待の手法についても「殴る・蹴る」といった目に見えた方法から、食事の量を減らす、無視し続けるなど周囲の人間に気付かれ辛いものまである模様。
また、部外者が立ち入ることの出来ない家庭の内部で行われる行為であるだけに、事件が発覚した時には「取り返しが付かない事態」になっていることが多いのも虐待の実情でしょう。
テレビの報道や、ネットのニュースなどを見ていると、毎日の様に陰惨な事件が伝えられていますが、決して国もこの事態を容認している訳ではありません。
近年では、幼児や高齢者を虐待から守る法律が次々と制定され、徐々にその効果を発揮しつつあるのです。
そこで本日は、「虐対防止法とは?幼児と高齢者を守る法律を解説!」と題して、この憎むべき虐待に法律がどの様な規制を掛けているのかを解説してみたいと思います。
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児童虐待防止法
子供たちを虐待から守るべく、2000年に施行されることとなったのが「児童虐待の防止等に関する法律」であり、一般的には『児童虐待防止法』という名称で知られています。
実は「児童虐待防止法」という名称の法律自体は、戦前から日本に存在していたのですが、終戦後に廃止されることとなり、以来、2000年を迎えるまでは「児童福祉法」という法律が子供たちを守っていました。
しかしながら複雑化する社会においては、児童福祉法のみで虐待を防止することは叶わず、結果として多くの子供たちがモラルの無い大人たちの犠牲となっていったのです。
そして増え続ける虐待事件に歯止めを掛けるべく、戦前のものとは全く内容を異にする「児童虐待防止法」が改めて施行されることになりました。
児童虐待防止法の要点
児童虐待防止法は全18条というコンパクトな法律ですが、その要点を絞り込めば、
- 虐待行為の定義
- 虐待早期発見のため規定
- 虐待された児童の保護
という3点を挙げることが出来るかと思います。
虐待行為の定義については、「殴る」などの暴力行為に加え、食事制限や放置、言葉の暴力やわいせつ行為に加え、同棲する恋人などが子供を虐待しているにも係らず「見て見ぬフリ」をすることも虐待と位置付けています。
また、人目に触れない虐待行為を早期に発見するために、学校の教師や幼稚園の先生、医療関係者などに、児童相談所への通告義務を課しています。(この場合に関しては、秘密漏示罪や守秘義務違反とはならない)
そしてこの通告義務、「児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者」にあると規定されていますから、一般の方の通告も可能であり、匿名も認められますから「怪しい」と感じた際には積極的に行うべきでしょう。
なお通告を受けた行政機関や児童相談所は、保護者に出頭要請を行えるだけに止まらず、虐待が疑われる家庭に調査に赴き、場合によっては建物への立ち入りも許可されています。(裁判所の令状が必要)
その上、住人が立ち入り調査の妨害を行った際には、警察にも応援を頼める制度となっていますから、これは実に頼もしいですよね。
さて、最後にご紹介するのが「児童の保護」についてです。
立ち入り調査などで虐待が発覚した場合には、行政は保護者に対して指導を行うことが出来ます。
「指導」というと非常に手ぬるい感覚も致しますが、この指導に従わない場合には親権の停止等の処分がなされる上、最悪は親権を剥奪される可能性もあるのです。
また事態が緊急を要する場合については、子供の身柄を一時的(6ヶ月間が上限)に施設に避難させることも可能であり、子供が預けられた施設に虐待を加えた保護者が近付くことを禁止する命令を発することも出来ます。
この禁止命令に保護者が逆らった場合には、一年以下の懲役または百万円以下の罰金に処せられることとなるのです。
さて、ここまで児童虐待防止法の要点をまとめて参りましたが、「何かが足りない」という感じておられる方も多いはず。
実はこの児童虐待防止法、保護者に対して「虐待を行ったこと自体を罰する旨」が記されていないのです。
もちろん、子供が怪我などをすれば「傷害罪」などで保護者は公訴されることとなりますが、虐待自体を罰する規定がないのは実に納得の行かないものがあります。
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高齢者虐待防止法
子供に対する虐待の次は、こちらも近年増えつつあるお年寄りに対する虐待を防止する法律についての解説となります。
高齢者虐待防止法は、正式名称「高齢者の虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」という法律であり、2006年から施行されることとなりました。(高齢者虐待防止法における高齢者の定義は65歳以上)
実はこの法律、前項でお話した児童虐待防止法と非常に良く似た内容となっていますので、ここでは両方の比較を行いながら解説を進めて行きます。
まずは虐待に関する定義ですが、殴る等の物理的な虐待に加え、食事を与えない、暴言を浴びせる、そして性的な虐待も含まれるものと規定されていますが、子供の虐待には存在しなかった「経済的な虐待」という観念も存在。
これは家人が高齢者の財産を勝手に処分したり、預金を巻き上げたりする行為を防止するための文言となっており、高齢者虐待防止法ならではの内容と言えるでしょう。
また、この法律でも虐待を発見した者への「通報義務」が課せられていますが、児童虐待防止法の時は「虐待が疑われる時は」であるのに対して、高齢者の場合は「虐待が行われている上、生命や身体に重大な危険が生じている時」との内容になっており、ここは大きく異なる点と言えます。
更に「立ち入り調査」に対しても、高齢者の場合には通報の場合と同じく、「生命や身体に危険が及んでいる時に限られる」と規定されているのです。
続いて解説させて頂くのは「高齢者の保護」という部分になりますが、高齢者虐待防止法でも緊急を要する場合には施設への避難が認められている上、虐待を行う可能性のある家人の面会を制限する規定が存在。
但し、児童虐待防止法では施設への入所に6ヶ月という期限がありましたが、高齢者虐待防止法では期間の制限が設けられていません。
なお、高齢者虐待防止法の最大の特徴として挙げられるのが「介護施設等での虐待に関する規定」と「成年後見制度の利用促進」に係る規定です。
近年では家人による虐待のみならず、入所している介護施設での事件も増えていますし、財産の処分などについても、法律で禁じるだけでは根本的な解決が望めないため、成年後見制度の利用を推奨しているというのが実情でしょう。
因みに高齢者虐待防止法における罰則規定は、虐待が疑われる自宅への立ち入りを家人が拒んだ際や、虐待に関する質問に対して嘘の証言をした時に課せられるとされており、三十万円以下の罰金という少々甘い内容です。
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虐対防止法まとめ
さてここまで、児童虐待防止法と高齢者虐待防止法の内容を比較しながら解説して参りました。
全体を見渡せば、高齢者の虐待よりも児童虐待に対して、法律は厳しい規制を加えていることがご理解頂けるはずです。
もちろん、ある程度の判断が可能なお年寄りも、未成熟な子供の保護を手厚くするという趣旨は理解出来ますが、重い認知症などを患っている高齢者等に対しては配慮が不十分な様に感じるのは私だけでしょうか。
子供は「国の宝」なんて言われ方をされますが、今、私たちが暮らす社会の礎を築いてくれた高齢者の方々も「同じく宝である」という意識を持ち続けたいものです。
また、これは両法律に言えることですが、「虐待という行為自体」を罰する規定は存在せず、あくまでも傷害罪などの刑法によって加害者を罰するという点に関しても、今後は見直しを検討していくべきだと思います。
なお虐待に関する法律に関しては、本日ご紹介した子供とお年寄りに対するもの以外にも、障害者虐待防止法という障害者の方に向けたものがありますが、こちらに関してはまた後日、お話させて頂くつもりです。
ではこれにて、「虐対防止法とは?児童と高齢者を守る法律を解説!」の記事を締め括らせて頂きたいと思います。
参考文献
自由国民社編(2015)『夫婦親子男女の法律知識』自由国民社 472pp ISBN978-4-426-12069-6
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