結婚詐欺

 

男性にとっても、女性にとっても、未来への夢が大きく広がって行くのが「結婚」というイベントですよね。

愛する人と生涯の愛を誓い、可愛らしい子供と共に楽しく過ごす毎日は、正に幸福の絶頂ともいうべき情景でしょう。

近年でも「婚活(こんかつ)」なんて言葉がブームになっていましたから、人々の結婚に対する憧れは、今も昔も変わりないものであるようです。

しかしながら、多くの人々が望む「幸福」であればある程に、それは醜い犯罪者のターゲットとなってしまうのも事実ですよね。

そこで本日は、そんな憎むべき結婚詐欺に関する法律問題の解説と、騙されないためのテクニックなどをご紹介して行きたいと思います。

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結婚詐欺とは

ではまず最初に、「結婚詐欺とは何なのか?」という点からお話を始めさせて頂きます。

「今さら結婚詐欺の説明なんて要らないよ」とも言われてしまうかもしれませんが、一言で結婚詐欺とは言っても、様々なパターンが存在するもの。

最もオーソドックスな形態と言えば、対象が男性であれ女性であれ、結婚をチラつかせながら相手に近付いて、金銭等を騙し取る手口となるでしょう。

このパターンはドラマや映画などでもお馴染みですが、

  • 実は借金がある
  • 事業で損出を出し、それを補填しなければならない
  • 良い投資の話がある
  • 家族が病気で、高額な治療必要

などの理由で、お金の無心をすることが多い様です。

確かにこうした手口の場合には、刑法上の罪に問われる可能性がありますが、世間で結婚詐欺を言われるケースはこれだけではありません。

例えば、「結婚すると約束したのに、相手にその気がなかった場合」もあるでしょうし、「結婚する意志はあるものの、離婚歴や子供がいることを隠していた」なんてケースもあるはずです。

ただ、刑法上の詐欺罪を適用するとなると、あくまで「騙して金銭等を払わせた」こと等が要件となりますから、表記の様なケースでは警察に届け出ても対応してもらうことは困難でしょう。

それでは「泣き寝入りするしかないのか?」ということになりますが、決してそんなことはありません。

「結婚する気がなった場合」については、婚約指輪の交換や親族への結婚の挨拶が済んでいれば、「婚約破棄」ということで、民事訴訟を起こし慰謝料の請求が可能となります。(詳しくは「婚約破棄・成立に関する法律知識」の記事を参照)

また、「相手が経歴を詐称していた場合」については、例え婚約が成立していても、それを破棄する正当な理由(正当事由)と認められますし、相手を信じて結婚してしまった場合でも民法747条の定めによって、その事実を知った時から3ヶ月以内であれば、婚姻の取り消しが可能です。

この様に一言で「結婚詐欺」といっても、様々なパターンがありますので、状況に応じて的確な対処を行っていく必要があることをご理解下さい。

 

詐欺罪での立証は困難である

では次に、金銭を騙し取られたという本格的な結婚詐欺のパターンにおいて、刑事責任を問うことが出来るのかという点を解説して行きましょう。

前項でも申し上げた通り、結婚を餌に相手を騙し、金銭等を騙し取った場合には、刑法246条に定められた詐欺罪が適用出来る可能性も出て来ます。

しかしながらこの詐欺罪、実は非常に立証が困難な罪として有名だったりするのです。

そもそも詐欺罪が成立するには、

  • 犯人に騙す意思があり
  • 被害者が犯人の嘘を信じ(錯誤)
  • 金銭等を騙し取られた

という3点セットが必要となります。

そして、この3点セットが一つでも欠けると、詐欺罪は不成立ということになるのです。

つまり、以下のケースでは詐欺罪が成立しない可能性が出て来ます。

  • お金を出させた時には返すつもりだったが、後に返すのを止めた(騙す意思がなかった)
  • 実は騙される側も、相手が嘘を付いていることに薄々気付いていた(錯誤が無い)
  • 勝手に銀行口座から現金を引き出された(錯誤がないので詐欺罪は不成立、窃盗罪は成立)

この様に詐欺罪で相手を罰するには、非常に厳しい制約が存在するのです。

特に「相手に騙す意思があったか、無かったか」については、同じような事件を何件も起こしている様な場合ならともかく、後からこれを証明するのは非常に困難であることはご理解頂けることと思います。

また、更に結婚詐欺の立件を困難にしているのが、刑法244条という法律です。

この法律では、夫婦や親子間での詐欺や窃盗は罰することが出来ないと定めています。

つまり、どんな酷い騙され方をされたも、婚姻届さえ出してしまえば、相手は罪に問われない可能性が大なのです。

事実、プロの結婚詐欺師の中には一応籍だけ入れておいて、お金を吸い上げるだけ吸い上げたら、後は離婚するだけという手口も少なくありませんから、この点には充分な注意が必要となります。

ここまでお話しすれば既にお判りかと思いますが、結論として「結婚詐欺を刑法で罰するのは非常に困難」というのが答えです。

そして警察も、こうした事情は充分に承知していますから、余程証拠が揃っていない限りは、「なかなか捜査に乗り出してくれない」という結果になるでしょう。

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結婚詐欺と民事訴訟

ここまでの解説をお聞きになり、絶望的なお気持ちになっておられる方も多いかもしれませんが、結婚詐欺は民事事件としても責任を追及することが出来ます。

但し、あくまでも民事事件の扱いですから、騙した人間を相手取って「損害賠償を請求する裁判を起こす」という方法以外にはありません。

過去の判例などを見ると、刑事事件としては不起訴となった事件でも、民事訴訟では騙した側に賠償金の支払を命じているケースも多数存在しますから、少し希望の光が差しますよね。

なお、「自分がいくら騙された!」と腹を立てていても、裁判は厳正に行われますから、『相手に騙されたことを立証する充分な証拠』が揃っていなければ、望む様な判決は下されないということだけは肝に銘じておきましょう。

また仮に勝訴したとしても、相手に資力が無い場合には、強制執行などの手段を用いても、判決通りの賠償金を手にすることは出来ません。(詳細は「強制執行とは?という疑問に解り易くお答えします!」の記事を参照)

そして更には、裁判に際して依頼を行った弁護士への報酬の支払(詳細は「弁護士の選び方を解説致します!」の記事を参照)も控えているはずですから、民事訴訟で勝利しただけでは問題解決とはならないのです。

 

結婚詐欺に合わないために

結婚詐欺を取り巻く法律上の問題については、ここまでの解説でおよそご理解頂けたことと思います。

結論から申し上げれば、騙された後にどんな手段を講じるより、騙されない様にするのが一番大切ということになるでしょう。

では、「結婚詐欺に引っ掛からないためには、どんな対策を行うべきなのか」という点を以下にまとめて行きたいと思います。

 

交際相手の身元や身辺をしっかりと確認する

まず最も重要なことは、相手の身元や身辺をしっかりと確認することです。

恋愛感情が燃え盛っていると、「ついつい相手を信じて上げたい」と思ってしまいがちですが、ここで油断は禁物です。

また相手が手慣れた詐欺師である場合には、簡単には尻尾を出さないでしょうから、こちらもそれなりの手段を講じる必要があるでしょう。

そして最初に確認するべきは、相手の自宅の場所と勤務先となります。

自宅については「郵便物が届いているから」といった理由で信じてしまう方も多いようですが、転送手続きさえすればいくらでも詐称が可能ですから、関係が深くなる前に一度は自分の目で確認しておきたいところです。

なお勤め先についても、会社に勤めているのであれば保険証に勤務先の表示があるはずですし、自営の場合なら会社の所在地に実体があるかを確認しておきましょう。

 

戸籍もガッチリ確認

自宅や勤め先の所在を確認しても、安心するのは早過ぎます。

手だれの詐欺師は巧妙に身分を偽っているものですから、入籍などを控えている場合には「親が希望している」などの理由を付けて、戸籍謄本も確認するべきです。

そしてここで注意する必要があるのは、見せてもらった戸籍に「転籍」の記載がないかの確認となります。

転籍とは、本籍を他の地域に移す行為となりますが、これが行われると新たな戸籍謄本には旧本籍地で起きた離婚などの記載内容が消されてしまうのです。

「詐欺罪での立証は困難である」の項の後半でも書きましたが、本格的な結婚詐欺師は一度は籍を入れるという手法を用いますので、離婚を繰り返している形跡はかなり有効な判断材料となるでしょう。

戸籍謄本に転籍の痕跡を見つけた際には、「除籍謄本」の提出を求めることで、前本籍地での結婚・離婚の状況を把握することが可能です。

除籍謄本は80年間保管されているはずですから、これが提出出来ないということは、詐欺師である確率が濃厚でしょう。

 

お金を出す時には必ず借用書

愛する人がお金に困っていると、ついつい財布の紐も緩んでしまいがちですが、どうしてもお金を貸して欲しいと頼まれ、断れない場合には借用書を交わすようにしましょう。

「そんなことをしたら、相手に嫌われてしまう!」と思われるかもしれませんが、恋人や婚約者にお金を借りるのに借用書も書けない無責任な人間とは、将来の約束など出来る訳もありません。

借用書の正式な名称は「金銭消費貸借契約書」と言い、インターネットなどでも手軽にフォーマットと手に入れることが可能ですから、これらを活用しましょう。

また、押印に際しては実印を用いて、印鑑証明を添付させるのがベストです。

印鑑証明を提出させれば、身元の証明という意味でも効果を発揮するでしょう。

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結婚詐欺まとめ

さてここまで、結婚詐欺を取り巻く法律上の問題や、騙されるのを防ぐのに有効な手段を解説して参りました。

結婚詐欺は憎むべき犯罪ですが、法律上の責任を問うには、それなりの証拠集めや法的な根拠が必要なことをご理解頂けたことと思います。

現代社会では、SNSなどを利用して気軽に男女が知り合う機会が増えて来ましたが、こうしたトレンドに合わせて結婚詐欺の被害が増えつつあるのも確かです。

自身の資産を守り、明るく楽しい未来を手に入れるためにも、正しい知識を身に付けて不逞の輩をしっかりとブロックして行きたいものですよね。

ではこれにて「結婚詐欺に関する法律問答をお届け!」の記事を締め括らせて頂きたいと思います。

 

 

参考文献

自由国民社編(2015)『夫婦親子男女の法律知識』自由国民社 472pp ISBN978-4-426-12069-6

 

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