強制執行とは

 

映画やドラマなどで、時折目にするのが「強制執行」という風景です。

貧しい家庭環境で育った主人公が、強制執行により自宅から追い出されるシーンなどは、可哀想で見ていられないものがありますが、この強制執行なるイベントが一体どんなものなのかについて、詳しくご存じの方は意外に少ないのではないでしょうか。

また、知人に貸したお金がなかなか返してもらえなかったり、アパートなどをお持ちで、入居者の家賃滞納に苦しめられている方々にとっては、どうすれば強制執行に踏み切れるのかを、是非とも知りたいところかと思います。

そこで本日は「強制執行とは?という疑問に解り易くお答えします!」と題して、強制執行の流れや、手続きの概要などについて解説致しましょう。

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強制執行とは

まず疑問に思うのは、「強制執行」とはそもそも何だろうという点ではないでしょうか。

強制執行とは、「民事執行法という法律により定められた、国家権力による私的債権の回収方法」を意味する言葉です。

「そんな説明では良く解らない」という方も多いでしょうから、更に簡単にご説明すれば、「回収出来ない借金などに対して、一定の手続きを踏むことにより、国が強制的に回収を行ってくれる制度」ということになります。

この様に説明すると「何て素晴らしい制度なんだろう!」とお思いになるかもしれませんが、強烈な強制力を持つ制度だけ、不当な制度利用などがあってはなりませんので、これを行うまでの手続きは「それなりの手間が掛かる」ものと言えるでしょう。

さて、そんな強制執行が実際に行われると、一体どんな事態が発生するのでしょうか。

強制執行には執行対象によりいくつかの種類が存在しますので、詳細は少々異なりますが、基本的には「執行官」と呼ばれる役人や、「執行裁判所」という機関が文字通りの『強制的な執行』を行うことになります。

お金(債権)への執行となれば、銀行口座や会社から支払われる給料まで差押えの対象となりますし、不動産の明け渡し請求なら、建物中に入居者が立て籠もっていても、これを強制排除出来る上、内部の荷物も全て撤去してしまうという凄まじさです。

そんなお話を聞くと、少々恐ろしいイメージを持たれるかもしれませんが、次の項では具体的な強制執行の手続きについてお話してみたいと思います。

 

強制執行の手続き

では、一体どんな時に強制執行に踏み切ることが出来るのでしょう。

その方法には様々なものがありますが、最もポピュラーなのは、裁判の判決に従わない場合です。

借金を返さない、交通事故の賠償金を支払わない、アパートの賃料を滞納するなどの事態が発生すれば、債権者(支払を受ける側)は裁判という手段に打って出ます。

そして裁判では厳正な審議が行われ、被告に「支払いの義務がある」と判断すれば、支払命令という判決を下すことになるのです。

本来であれば、裁判で結果が出たことですから、大人しく命じられたお金を払うべきなのですが、この支払いを拒むと次のステップが「強制執行」となってしまいます。

但し、既にお話したように、強制執行に至る道のりは裁判だけとは限りません。

裁判に至る前に調停(詳細は「調停とは?という疑問にお答えします!」の記事を参照)により揉め事が解決することもあるでしょうが、ここで約束した内容を反故にすれば、やはり強制執行がまっていますし、公正証書と呼ばれる公文書にて交わした契約に違反しても同様の事態となるでしょう。(詳しくは過去記事「公正証書とは?という疑問にお答えします!」を参照)

法律的に言えば、裁判によって得た「判決」や、調停の結果作られた「調停調書」、そして「公正証書」も、その性質は『債務名義』と呼ばれるものとなります。

強制執行を行うには、今ご説明した「債務名義」と「執行文」・「送達証明書」の三点セットが必要となるのですが、最も取得するのに時間と労力を要するのが「債務名義」であり、これさえ取得してしまえば後は簡単です。

「執行文」は約束が破られたことを裁判所等に届け出れば、権利関係に大きな変動がない限り発行してもらえる文書ですし、「送達証明書」も強制執行を行うことを相手に間違いなく通知したという証明書に過ぎませんから、若干の費用と数日の待ち時間で入手することが可能となります。

そしてこの三点が揃えば、執行官や執行裁判所の立会いの下、執行に取り掛かれるという訳です。(実際の執行までには1ヶ月程度時間が掛かることも)

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強制執行の種類

強制執行までの手続きについてご理解頂けたところで、執行を行う対象によって異なる強制執行の種類について、ご説明致しましょう。

 

債権への強制執行

相手方が銀行に預入れている預金や、今後支払われる予定の給料を差押える強制執行となります。

とは言え、給料などを全額押えてしまうと、本人の生活が立ち行かなくなりますから、給与に関しては総額の1/4までが上限。

また、年金などの公的な給付金は差押えの対象外となります。

よって、まとまった金額を差押えるなら預金が狙い目となりますが、残高を知るためには弁護士などに調査を依頼するしかありません。

差押えはしてみたが、全く預金残高が無いのでは、手続きに要した費用が無駄になってしまいますので、この点には注意が必要です。

 

動産への強制執行

強制執行を行う相手の持ち物(動産)に対して差押えを行う強制執行となります。

具体的には、貴金属や自動車、有価証券、66万円を上限とした現金などを、相手の自宅に執行官と共に乗り込んで差押えというもの。

但し、行ってはみたが全く資産が無かったり、自宅以外の場所に保管されている場合には、その資産を差押えるのが困難であるという特徴があります。

また、自動車などについては分割払いで購入していると、所有権は未だ販売業者にあることになりますから、これは対象外となってしまうのです。

こうした弱点の多さから、あまり行わることのない強制執行と言われています。

なお、生活に必要な服や調理道具などは、差押えの対象から除外されるルールです。

 

不動産への強制執行

自宅などの不動産を担保に入れて、借入れなどを行っている相手方に対して行う強制執行となります。

債権者は抵当権などを設定していますから、借金の返済が滞った場合には競売の申し立てを行うことで強制執行の手続きを開始し、競落人(競売で購入した人)が支払った代金から弁済を受けることになります。

但し、不動産を担保に入れての借り入れは、複数の相手に対して可能なため、2人、3人、時には5人以上という大人数で、競売で得た代金を分配することも。

よって、貸したお金を全額回収するのは、非常に困難と言えるでしょう。

 

物件明け渡し等の強制執行

アパートなどを貸していて、家賃の滞納などを理由に立ち退きを行う強制執行となります。

強制執行が決定すれば、執行官が断行日の1ヶ月前までにその旨を通達(鍵を開けて室内に張り紙をする)、断行日当日は執行官と処分業者同行の下、本人も含め全ての家具を物件内から撤去することに。

なお、本人が物件から出て行こうとしない時は、公務執行妨害となり、最悪は逮捕されるケースもあります。

目的が部屋などの明け渡しということで、強制執行を行えば100%要望が叶えられますが、それだけに退去させられる者へのダメージも大きいため、時には入居者が物件内で自ら命を絶ってしていることもある様です。

こうなると、物件の価値が著しく低下することとなりますから、強制執行には細心の注意が必要でしょう。

 

仮差押え・仮処分

これまでお話して来た強制執行とは、少々趣が異なりますが、「仮差押え」や「仮処分」も強制執行の一種とされています。

例えば裁判を起こそうという時や、強制執行を行う直前に、相手方が持っている財産を全て使ってしまうというケースも考えられるでしょう。

そうなれば、例え勝訴しても、強制執行を掛けても、執行を行う側は思う様な債務の回収が出来なくなりますよね。

そこで必要となるのが、「仮差押え」や「仮処分」です。

仮差押えは債権や不動産に対して行うもので、裁判所に訴え出ることで、預金口座や不動産などを一時的に差押える(仮に)ことが可能。

但し、その後に訴訟を起こすことが仮差押え発動の条件となっていますし、万が一原告が敗訴した場合に備え、仮差押えに際しては一定額の保証金を納付する必要があります。

これに対して仮処分は、動産や立ち退き案件を対象に利用される制度です。

不動産の立ち退きを求める裁判を起こそうとしているのに、それを察知した入居者が「別の人間に又貸しする」といった手段に出るのを防ぐ場合などに用いられます。(占有移転禁止の仮処分)

また、宝石などの貴金属が裁判の対象になる際には、売却を禁止したり(処分禁止の仮処分)、会社との解雇を巡る裁判中に社員としての立場を保全する(仮の地位を定める仮処分)など、目的によって様々な仮処分の申し立てが可能です。

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強制執行まとめ

さてここまで、強制執行についてお話して参りました。

概要だけを聞くと「非常に便利な制度」の様にも思えますが、それぞれに細かな特徴があり、上手に使いこなすには「なかなか難しいものがある」のが現実です。

よって、弁護士等の専門家にアドバイスをもらいながら手続きを進めて行くのベストでしょうが、お願いする側も制度の概要について、知っておいても決して損はないでしょう。

諦めかけていた賃料や借金の焦げ付きを、強制執行を利用して上手に回収してみては如何でしょうか。

ではこれにて「強制執行とは?という疑問に解り易くお答えします!」の記事を締め括らせて頂きます。

 

 

参考文献

藤田裕監修(2015)『図解で早わかり 最新版 訴訟のしくみ』三修社 256pp ISBN978-4-384-04643-4

 

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