相続放棄とは

 

大切な家族がこの世を去ることは、言葉では到底言い表せない程に悲しい出来事ですよね。

そして人が亡くなった後に控えているお通夜やお葬式などのイベントは、「残された人々を忙しくさせ、悲しみに暮れる暇を与えないための儀式である」なんて言われ方もされます。

しかしながら複雑化した現代社会においては、こうしたイベントがなくとも、遺族たちは様々な手続き等に奔走しなければならず、当面は「悲しんでいる暇もない」というのが実情でしょう。

そして、そんな手続きの中でも特に厄介なものとされるのが「相続」というイベントです。

財産があればあったで揉め事に発展する可能性は高くなりますし、時には相続したくもない負の遺産が残さる場合もありますから、相続にとても手を焼かされたという経験をお持ちの方も多いはず。

前回の「相続の順位や割合について解説!」という記事では、我が国の相続に関する基本的な知識をお届け致しましたので、

今回は「相続放棄とは?という疑問にお答えします!」と題して、相続の放棄や限定承認について解説させて頂きたいと思います。

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相続放棄って何?

「相続放棄」という言葉を聞いたことがあるという方は、少なくないことと思います。

その意味は読んで字の如く、「自分が相続すべき財産を放棄する」ことを指しますが、その意味合いや手続きを正確に理解されている方は意外に少ない模様。

まず前提としてお話しておきたいのが、相続放棄は民法939条によって定められた正式な法律行為であるということです。

よく「家族との話し合いで、相続を放棄することに決めた」なんて話を聞きますが、これはあくまで相続人同士が勝手に合意に至っただけで、正式な法律行為を行ったことにはなりません。

なお正式な相続放棄を行うためには、家庭裁判所に申し立てを行う必要があるのです。(相続の放棄の申述書を差し入れることが必要)

また、申し立てを行う時期にも制限があり、原則は相続する財産の持ち主(被相続人)が亡くなったのを知った日から3ヶ月以内とされています。

そして家庭裁判所によってこの申し立てが認められたなら、申立人は該当の相続に関して一切の相続権を失いますし、後になって相続放棄を取り消すことも許されないのです。(財産がないなど、騙されて申し立てを行った場合は別ですが)

更には、既に放棄する財産に手を付けている場合にも、申し立ては認められないことになるでしょう。

 

相続放棄が必要となる場合

さて、相続放棄の制度をある程度ご理解頂いたところで、具体的にどの様な場合に相続放棄をする必要が出て来るのかを考えてみましょう。

通常、複数の相続人がいる場合については、まずは遺産分割の話し合いが持たれることとなります。

誰が現金でいくら相続し、自宅は誰が貰うなど、テレビドラマや映画でお馴染みのあのシーンです。

そして取り分が決まったなら、相続人全員が協力して遺産分割協議書という文書を作ることになります。

この協議書には、誰が何の財産を相続するかが明確に記されることとなりますし、相続人全員が署名・捺印を行いますから、例えば自分の取り分である預金を引出したり、貰うべき不動産の所有権移転登記をする際にも、この書類は絶対に必要です。

またこの遺産分割協議書は、相続人の間では強い効力を持つ文書となりますから、一度サインをしたのに後から不服の申し立てや、遺留分の請求を行うことは出来ません。

という訳で、遺産分割協議書が作成出来れば、わざわざ家庭裁判所に出向いて相続放棄を手続きをする必要もなさそうに思えますよね。

しかしながらこの分割協議書は、故人にお金を貸していた債権者などには効力を発しないというのが法律的な解釈なのです。

よって、「自分は遺産分割協議の中で財産を貰っていないのだから、借金を返す義務はない」という言い訳は債権者には通用しないこととなりますから、こうした負の遺産がある時にこそ相続放棄の手続きが必要となって来ます。

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相続の限定承認

相続放棄がどんな場合に必要となって来るかはお判り頂けたことと思いますが、冒頭でもお話した通り、一度相続放棄をしてしまうと後戻りは出来ませんし、3ヶ月という時間制限もありますから、ここで頭を悩ませてしまう方も多いのではないでしょうか。

例えば故人にかなり多額の借金があることは知っていたとしても、それと同等の資産を持っているというケースでは、「じっくり計算してみたら、100万円か200万円は相続分が残るかもしれない・・・」なんて考えも頭を過りますよね。

そんな時におすすめなのが、相続の限定承認という方法です。

相続には単純承認と限定承認という二通りの方法があり、プラスの財産もマイナスの財産もひっくるめて、全てを相続することを単純承認と呼びます。

これに対して、「プラスの財産の範囲内でのみ、マイナスの財産も相続しますよ」という方法が限定承認という呼ばれる方法です。

例えば借金が1000万円あるのは判っていたが、プラスの財産がいくらあるのかがハッキリしない場合に限定承認を行ったとしましょう。

そして財産の整理をしてみて、プラスの財産が1200万円であった場合には、1000万円の債務を返済し、残りの200万円を相続することになります。

反対に「財産を整理してみたら800万円のプラスしか出ませんでしたよ」という時には、800万円のみを返済に充て、残りの200万円の返済は免除されることになるという訳です。

こんなお話しを聞くと、「限定承認!なんて素晴らしいんだ!」と思われるかもしれませんが、実は限定承認にも弱点はあります。

まず問題となるのが、限定承認は手続きが非常に面倒であるという点です。

その大変さは相当なもので、財産の目録作りに始まり、債権者への報告、そしてお金を返済するのにもギッチリとルールが定められており、弁護士を雇わない限り、素人では正直手にあまり過ぎます。

また、やり方を誤ると限定承認は取り消され、単純承認扱いとなってしまい、借金を背負わされることとなりますから、弁護士を雇う覚悟がなければ行うべきではないでしょう。

因みに限定承認するか否かも、相続発生後3ヶ月以内に決めなければなりませんし、複数の相続人がいる場合には全員で手続きをしなければなりませんから、準備は早め早めに行っておくのがベストです。

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相続放棄まとめ

さてここまで、相続放棄や限定承認に関する法律知識を解説して参りました。

相続のお話をしていると、「大切な家族が亡くなったのに、お金の話ばっかりかよ」という気分にもなって来ますが、プラスの財産であれば故人も資産を上手に受け継いでもらいたいと願っているはずです。

また反対に、マイナス財産であれば「家族に背負わせるのは申し訳ない」という気持ちの反面、「出来る限りは決着を付けたい」と考えているのも事実でしょう。

こうした見方に立てば、相続放棄や限定承認の制度を上手に利用して、マイナスの財産を上手に処理することは、故人に対する何よりの手向けになるのかもしれませんよね。

ではこれにて、「相続放棄とは?という疑問にお答えします!」の記事を締め括らせて頂きたいと思います。

 

 

参考文献

自由国民社編(2015)『夫婦親子男女の法律知識』自由国民社 472pp ISBN978-4-426-12069-6

 

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