遺言書の効力

 

自分が亡くなった後の相続財産の配分や、家族に関する様々な事項を書き遺すことが出来るのが、遺言書という文書です。

「人間、亡くなったら終わり」なんて言われ方をされることがありますが、しっかりと遺言で故人の遺志を伝えることが出来れば、残された者たちの心に末永く影響を及ぼすことも可能でしょう。

しかしながら、遺言書は法律上で厳格な取り決めがなされている文書となりますから、法の精神に反する内容を書いた場合には「無効」との判断をされてしまうこともあるのです。

そこで本日は「遺言書の効力と内容について解説致します!」と題して、『どんな遺言が有効と判断されるのか?』などについてお話して行きたいと思います。

なお、遺言の種類や書き方の注意点などは別記事「遺言書の種類と作成方法などを解説致します!」をご参照下さい。

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遺言書で効力を持つ内容は?

では早速、遺言書に書くことによって法律上効力を発することが出来る事項についてご説明して参りましょう。

 

相続財産分配の割合や分割方法、法定相続人以外への遺贈

遺言書に書かれる内容と言えば、やはり財産の分割に関する内容が最もメジャーなものとなるでしょう。

なお民法では、割合に関する遺言(例・妻に財産の40%、息子に30%、娘に30%など)、分割の方法に関する遺言(例・妻に不動産、息子に預金、娘に株式など)を認めています。(民法902条、908条)

但し、こうした分配を遺言で指定する際には、配偶者や子供、そして故人の親が有する遺留分(どんな場合にも必ず確保される相続財産の取り分)を侵害することは出来ないとも定めているのです。(このルールを破った遺言を行っても、遺留分を侵害された者は他の相続人に侵害分の請求が可能・遺留分減殺請求)

また、法律は遺言によって指定された者が財産の分配を故人の代わりに決めることも可能としていますから、「誰に何%の財産を相続させるかは妻に任せる」といった内容も有効となります。

因みに法定相続人以外に財産を与える遺言(遺贈)も有効としていますから、遺留分を侵害しない範囲で遺産を友人や愛人などに譲ることも可能です。(民法964条)

 

減殺請求方法の指定

前項にて遺留分を侵害する遺言については、「減殺請求という他の相続人への請求権がある」というお話を致しましたが、この請求には一定のルールがあります。

例えば3人の相続人がいて、A1000万円、B1000万円、C300万円という遺言がなされたとしましょう。

この時Cの遺留分が200万円の侵害を受けていれば、CはAとBに対して100万円ずつの請求を行うことが可能です。

しかし、故人が遺言で「減殺請求はAだけにすること」と書いてあれば、CはAに対して200万円の減殺請求を行うことになるのです。

こうした遺言による「減殺請求方法の指定」を民法1034条は認めています。

 

遺産分割の禁止

「遺産分割なら聞いたことがあるけど、分割の禁止なんて初めて聞いた」という方も多いかと思います。

こちらは民法908条に定められた内容となり、相続開始から5年を超えないことを条件に、遺言で分割を禁止することが可能です。

「どんな時に必要なの」という点が気になるかと思いますが、例えば「子供の一人が海外赴任中で、公平な遺産分割が出来ない」というケースや、「息子がまだ幼く、相続しても別の親族に後見を頼まなければならない」なんて場合が考えられるでしょう。

 

子供の認知

愛人との間に隠し子が居る場合などには、「その子にも財産を残して上げたい」と考える者もいるでしょうが、諸々の事情で生きている間には認知して上げることが出来ないケースもあります。

こんな時は、遺言で「●●を自分の子供として認知すること」なんて遺言を残すことが可能です。

 

相続の担保責任の取り決め

こちらも聞き慣れない言葉かと思いますが、相続で引き継ぐ財産には「担保責任」という概念が存在します。

例えば、3000万円の価値のある一戸建てを相続したものの、実際に住んでみたら酷い欠陥住宅で、実際には1000万円の価値しか無かったとしましょう。(2000万円の評価下落)

この時、自分の弟が現金で3000万円の相続を受けていれば、その弟に下落した2000万円の価値の責任(担保責任)を追及することが出来るという考え方となります。

そして、弟から現金で1000万円を受け取ることにより、兄弟それぞれが2000万円ずつの公平な相続が出来るということになる訳です。

こうした負担を担保責任というのですが、遺言ではこの担保責任についても取り決めが可能です。

「例え担保責任が生じても、精算はしない」と書いておけば、先の例でいう兄から弟への1000万円の請求は不可能となります。

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後見人等の指定

子供がまだ幼いのに、この世を去らなければならない親の気持ちは非常に辛いものがあるでしょう。

そこで民法839条及び848条は、親が亡くなった後に未成年者の面倒を見る後見人、そして後見人を監視する後見監督人を遺言で指定することを認めています。

但し、この遺言は「亡くなった方以外の親権者が居ない場合のみ」というルールがありますので、妻や夫が生きている状態では、後見人を指定することは出来ません。

 

相続人の排除・取り消し

長年一緒に暮らしていると、家族の間でも様々な問題や軋轢が起こって来るものです。

そして時には、「子供が親を虐待する」なんて悲しい事件も起きるもの。

こうした憂き目に遭っていれば、親も「自分を虐待した子供に、財産を渡したくない」と考えるのは無理もありませんよね。

そこで民法では、家庭裁判所に申し立てを行うことにより、相続人を排除したり、相続権を取り消すこが可能であると規定しています。

もちろん、こうした申し立ては生きている間にも出来るですが、遺言に書き遺すことにより、自分が亡くなった後に手続きを執ることも可能です。

 

遺言執行人の指定

ここまで様々な「遺言として法律的に効力がある事項」を解説して参りましたが、この内「子供の認知」と「相続人の排除・取り消し」の二つについては、相続人が自分で手続きを行うことが禁止さています。

そこで必要となって来るのが、「遺言執行人」という相続人の代わりに相続の実務を代行する者の存在です。

そして法律は遺言によって遺言執行人を指定することを認めています。

なお、この遺言執行人となれる者の資格については、未成年者でないこと、破産者でないことという2点となりますから、例え相続人でも遺言執行人となることは可能です。

よって、相続人でも遺言執行人にさえなれれば、「子供の認知」と「相続人の排除・取り消し」の手続きを行うことが出来ます。

しかしながら、遺言執行人は財産の目録を作成したり、他の相続人に業務の進捗状況を報告したりと、その業務はかなり煩雑な上、認知や相続人の排除などについては法的な手続きも必要となるため、弁護士や司法書士などを指定するのが現実的かもしれません。

 

遺言書の内容に関する注意点

さて、「法律的に効力がある遺言事項」がご理解頂けたところで、これ以外の遺言の内容はどの様に扱われるかについてご説明致しましょう。

まず結論から言ってしまえば、前項でご説明した事項以外の遺言内容は原則、努力義務程度の効力しか持たないこととなってしまいます。

もちろん前項で解説した以外でも、例えば「誰かに貸している借金を帳消しにする」なんて内容は、遺贈の一種と解釈され有効となりますが、「自分が借りていた借金を、遺産で相殺して欲しい」なんて遺言は無効と解釈されるのです。

この様に原則から外れた遺言の有効性は非常に判断が難しい傾向にありますから、専門家への相談なしに遺書に書き遺すのはやはり危険と言わざると得ません。

なお、基本的には「実現するのに第三者の協力が必要な行為」については、効力が及ばないという解釈をしておくのが良いかと思います。

しかしながら、この世を去るにあったては「残した妻の面倒を誰かに見て欲しい」、「可愛がっている犬を誰かに引き取って欲しい」など、様々な願いが出て来るものですよね。

そこでおすすめなのが、次項でご紹介する「負担付遺贈」という方法となります。

 

負担付遺贈について

こちらも全く聞き慣れない用語となろうかとは思いますが、負担付遺贈とは「遺産を受け取る代わりに、何らかの義務や負担を受け取る人間い負ってもらう遺贈」となります。

例えば、「自宅を相続させる代わりに、年老いた母親の面倒を見ること」や、「アパートを相続する代わりに、その収益の中から月額3万円を年の離れた弟に渡すこと」などが、負担付遺贈の代表的なパターンです。

なお遺贈を受ける側については、「受け取るメリットを超える負担までは負う必要なし」と定められていますから、『賃料が10万円しか入ってこないアパートを相続して、毎月15万円を誰かに払う』なんて遺言は守る必要がありません。

また、当然ながら負担付遺贈は受け取る側にて、遺贈を拒否することも可能とされています。

そして遺贈が拒否された場合には、負担によってメリットを得る者が、拒否した者に変わって遺産を手に入れることとなるのです。(母親の面倒を見ることが条件の負担付遺贈を拒否すれば、母親が相続人となる)

因みに、負担付遺贈を受けておきながら、義務を全うしない者については、他の相続人から履行の勧告を受けることとなり、最悪の場合は遺言の取り消しという判断を家庭裁判所から受けることになります。

さて、ここで問題となるのが、負担付遺贈以外にも受け取ることが出来る遺産があるというケースでしょう。

例えば、「母親の面倒を見る」という負担付遺贈のアパートと、現金5000万円(負担がない遺贈)を相続せよと遺言書に書いてあった場合で、『負担付遺贈のみを拒否出来るか?』という問題です。

もちろん他に相続人が居て、「負担付遺贈のアパートに1000万円を付けるから、母の面倒を見るのを代わって欲しい」なんて話し合いが付けば、全く問題はありません。

しかし他の相続人が誰も引き受けてくれない場合には、これは非常に困った事態となるでしょう。

こうしたケースで他の相続人と訴訟に発展した事例を見てみると、「遺言の一部を拒否することが可能」という判決と、「拒否出来ない」という判決の二つのパターンが存在しており、案件の性質によって裁判所の見解は分かれるようです。

もし裁判にて「一部放棄は不可」という判決が下されたなら、「相続放棄という方法で全ての財産の相続を諦めるか」、「遺言に従うか」のどちらかを選択することになるでしょう。

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遺言書の効力と内容まとめ

さてここまで、遺言書の効力と内容に関する解説を行って参りました。

遺言というと、かなり自由にその内容を書くことが出来るイメージがありますが、その内容に確実に効力を持たせるとなると、かなりの法的な知識が必要となるのがご理解頂けたことと思います。

しかしながら遺言は、自分がこの世に最後に残せる意思表示となりますから、じっくり内容を精査して「足跡」を残しておきたいものです。

ではこれにて、「遺言書の効力と内容について解説致します!」の記事を締め括らせて頂きたいと思います。

 

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