交通事故の共同不法行為

 

テレビやネットのニュースで、毎日と言って良い程に報道されているのが「交通事故」の話題です。

普段から自動車を運転する方にとっては、こうしたニュースを聞くと「身が引き締まる思い」がして来るものですが、自動車はおろか自転車にも乗らないという方にとっては、あまりリアリティーを感じないかもしれません。

しかしながら、例え徒歩専門の方でも、時には交通事故の加害者として事故の損害賠償額全額の支払いを命じられることがあるのです。

また、自動車の場合でも「信号待ちの際に後方から車に突っ込まれる」という、こちらが被害者と思われる事故でも、賠償金を請求されたケースも存在します。

そして、この様な状況に陥る背景には、民法における「共同不法行為」なる規定がその原因となっているのです。

そこで本日は「交通事故の共同不法行為について解説!」と題して、事故における共同不法行為責任についてお話してみたいと思います。

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共同不法行為とは?

共同不法行為という耳慣れない言葉が出て参りましたが、これは民法719条に規定された不法行為の類型のひとつとなります。

不法行為という用語を聞くと、「犯罪行為」というイメージが頭に浮かぶことと思いますが、民法上の規定では「他人の権利ないし利益を故意・過失にて侵害する行為」とされていますから、必ずしも窃盗や傷害事件といった刑法上の罪を指す言葉ではありません。

例えば、隣りの家が毎日大きな音で音楽を流しており、これ原因で体調を崩したことを理由に賠償を求める際などは、隣家に対して不法行為責任が認められたとしても、罰金などの刑事罰を求めることは難しいでしょうから、必ずしも犯罪=不法行為となる訳ではないことをご理解頂けるはずです。

そして、こうした不法行為を「数人が共同して行った場合」には、民法719条の共同不法行為となります。

先程の騒音問題のケースならば、隣り合う二軒の家が協力して騒音を出し続けており、周囲の住民がこれらの家を相手に訴訟を起こせば、共同不法行為が認められる可能性が出て来るでしょう。

また仮に共同不法行為が認められ、二軒の家に1000万円の損害賠償命令が下った場合には、被害者は二軒の家のどちらに対しても1000万円満額の請求を行うことが出来るとされているのです。

つまり、音を出した家の一軒が「お金がない」というならば、もう一軒の家に対して1000万円を請求出来ることになります。

もちろん全額を負担した家は、お金を出さなかった家に対して、後から請求を行うことは出来ますが、まずは被害者に対して賠償額全額を支払うことになるのです。

ただ、こうした共同不法行為の例を挙げると、「自分は人に迷惑を掛ける行為をしないから!」といった『他人事』の感覚を持たれることと思いますが、これが交通事故のケースとなると、皆さんにも充分その責任が降り懸かる可能性が出て来ます。

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交通事故における共同不法行為

では、交通事故においてどの様なケースで、「共同不法行為」の責任が問われているのでしょう。

運転免許を持っており、一度でも事故に巻き込まれたことがある方なら、過失割合という言葉を聞いたことがあるかと思います。

例えば、自分が停車中に後ろから自動車に突っ込まれた場合は「10・0」、自分の車が徐行中で、一時停止を無視した他の車が衝突して来た際には「2・8」といった、事故の責任分担率がこの過失割合です。(詳細は「交通事故の過失割合の決め方について解説!」の記事をご参照下さい)

そして事故に巻き込まれた際、自分に少しでも落ち度が認められれば、事故で損害を受けた第三者からは「あなたも立派な共同不法行為者」とみなされることになります。

先程の一時停止違反の衝突事例であれば、一時停止を怠った自動車があなたの車に衝突した後、その勢いで歩道に乗り上げ、歩行者に怪我を負わせた場合がこれに当たるでしょう。

歩行者が被った損害が500万円だとすれば、直接ぶつけた一時停止無視の車はもちろん、過失割合が僅か20%のあなたも500万円全額の賠償責任を負うことになるのです。

また、あなたが自動車を駐車禁止エリアに止めている際、後続車がこれを避けようとして、他の車と接触事故を起こした場合には、例えあなたが一切ハンドルを握っていない状況であっても、責任を負わされる可能性は充分にあるでしょう。

なお、この交通事故における共同不法行為責任は、例え自分が自動車を運転していない場合にも降り懸かって来る可能性があります。

例えば自転車で一時停止を無視して交差点に突入し、それに驚いた自動車がハンドルを切り損なって歩行者を跳ねた場合でも、共同不法行為が成立する可能性は充分です。

更には、あなたが歩いており、歩道があるにも係らず、ふざけて車道にはみ出し、これを避けようとした車が事故を起こせば、ここでも共同不法行為責任を問われることになりかねません。

この様に交通事故に関しては、「例え自分の過失割合が低い」、「自動車を運転していない」という状況でも、事故に関する全損害の賠償責任を負うことが有り得ることになります。

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事故の共同不法行為まとめ

さてここまで、交通事故における共同不法行為責任について解説して参りました。

「不法行為」というと、『自分には無縁』と感じる方も多いでしょうが、こうした事例を見て行くと、とても他人事ではないですよね。

因みに、通常被害者は直接自分に危害を与えた者から賠償金を取ろうとしますが、相手が無保険であったり、充分な保険に加入していない場合には、共同不法行為者の責任を追及して来ることになります。

先程もお話した通り、過失割合が低い者が全損害を賠償した場合には、もう一方の加害者に、過失割合に応じて「立替えた賠償金」を請求することが可能ですが、相手にお金がないからこそ、こちらに請求が回っている訳ですから、これを回収できる見込みは低いと言わざるを得ないでしょう。

歩行者や自転車の場合には、交通ルールをそれ程意識していないという方も多いと思いますが、こうしたトラブルに巻き込まれないためにも、細心の注意を払う必要があるのです。

ではこれにて、「交通事故の共同不法行為について解説!」の記事を締め括らせて頂きたいと思います。

 

 

参考文献

(有)生活と法律研究所編(2015)『交通事故の法律知識』自由国民社 368pp ISBN978-4-426-11950-8

 

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