自賠責保険とは

 

交通事故の被害者となった際、まず気になるのが「相手が自賠責保険に加入しているか?」という点なのではないでしょうか。

また自動車のオーナー同士の会話でも、自賠責保険に加入していないと聞くと、「それは絶対にマズイよ!」なんてことを言われてしまうはずです。

運転免許をお持ちの方でしたら、免許取得の際に「自賠責保険は強制保険である」、「加入しない場合は罰則がある上、事故を起こした際にとんでもないことになる」などの知識はお持ちのはずですが、どんな場合に、どれだけ支払われるかなど、その詳細についてまでご存じの方は意外に少ないのではないでしょうか。

そこで本日は、「自賠責保険とは?という疑問にお答えします!」と題して、カーオーナーなら絶対に加入しなければならない強制保険の内容を大研究してみたいと思います。

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自賠責保険ってどんな制度

ではまず、「自賠責保険がどのような制度であるか?」という点から解説を始めさせて頂きたいと思います。

この制度が作られたのは、昭和30年の「自動車損害賠償保障法(自賠法)」の施行に伴ってのものでした。

当時、高度経済成長期を迎えていた日本では自動車の交通量も鰻登りとなり、各地で多くの交通事故が発生していたため、事故に対する法整備が急がれていたのです。

そんな時代背景から誕生した自賠法は、交通事故の加害者に対する無過失責任(厳密には「ほぼ」無過失責任)を規定して、事故の加害者に手厚い保護を与える内容となっており、その被害者救済の一環として自賠責保険制度も誕生しました。

そして翌年の昭和31年には、全ての運転者に加入を義務付ける「強制保険化」が完了し、現在に至っています。

今では、自賠責保険に加入済みであることを示さなければ、車検を通すことが出来ない制度となっており、世間を走る自動車の殆ど全てがこの保険に加入しているのです。

なお、自賠責保険不加入の者には、1年以下の懲役または50万円以下の罰金という刑事罰に加え、免許停止という行政処分も課せられるルールになっています。

保険の運営は国が主幹となっていますが、加入に対する手続きなどは各保険会社がこれを請け負い、各保険会社が集めた加入料はいったんプールされ、その後各社に配分される仕組みです。

よって保険料は国が定めており、現行では自動車で25,000円程、バイクや原付でその半分くらいの金額になっています。(2年車検の場合、平成29年現在)

なお、保険金の支払いは原則対人賠償のみが対象となり、純粋な物件事故は適応外となっているのが特徴です。

 

支払われる保険金の知識

自賠責保険制度の概要をご理解頂けたところで、実際に支払われる保険金の額などについてご説明をして参りましょう。

自賠責保険の支払限度額は、事故の種類により下記の様に定められています。

  • 死亡事故・3000万円
  • 後遺障害事故・4000万円~3000万円
  • 傷害事故・120万円

ぱっと見る限り、交通事故保険金として金額が少な過ぎるように思えるでしょうが、この保険はあくまでも被害者の保護のための最小限の保険となっていますから、これで足りない部分は任意保険で賄うことになります。

なお自賠責保険は相手方との示談が成立する前でも、被害者が自ら保険金の支払いを請求出来る「仮渡金制度」が設けられており、治療費を建替えるのが困難な被害者にとっては非常にありがたい制度となるはずです。(任意保険でも仮払いが可能なケースもあります)

因みに、その後示談が成立した際には、被害者は自賠責保険の定めに従い正規の保険金(仮渡金ではないという意味)を請求可能となりますが、加害者から請求する場合には、「被害者に賠償を行った証拠の提出(示談書の写し等)」を求められることになります。

ではここで、先に挙げた事故の種類毎の保険金の支払方法や、保険金額の詳細を見て行きましょう。

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死亡事故

交通事故の被害者が、加害者に対して請求できる賠償金は「積極損害・消極損害・慰謝料」の三種類があることは、過去記事「交通事故の損害賠償について解説致します!」にてご説明致しましたが、自賠責保険でもこの全てに対して保険金が支払われます。

但し、死亡事故での自賠責保険の上限は3000万円が限度となりますので、足りない分は任意保険か、加害者が自腹で支払うしありません。

また、「積極損害・消極損害・慰謝料」にはそれぞれの支払い基準がありますから、賠償額が3000万円を超えるからといって、保険金も満額の3000万円が支払われる訳ではないことに注意が必要です。

積極損害にあたる死亡に至るまでの治療費や、葬儀代は保険の範疇となりますが、原則葬儀費用は60万円~100万円と少々安く、治療費に関しては傷害事故の場合の120万円が支払い限度額になります。

消極損害は、もし生きていたら得られるあろう給与額(遺失利益)を67歳まで働けるという仮定で計算しますが、本人が生きている場合には食費や洋服代などが掛かるのを加味して、総額から30%~50%の生活費を差し引いた上、金利を差し引いた額が保険金として支払われることに。

慰謝料については、原則350万円ですが、遺族がいる場合には550万円~750万円の追加がある上、扶養家族がいる場合には更に200万円が上乗せされます。

よって、最大で支払われる慰謝料の合計は350万+750万+200万円=1300万円が限度となります。

通常の死亡事故の慰謝料の相場が3000万円~2000万円であることを考えれば、やはり十分とは言えません。

 

後遺障害事故

事故により、被害者に後遺症が出てしまった場合となります。

積極損害は治療に要した費用について120万円が限度ですが、後遺症が出た場合の消極損害と慰謝料については最大で4000万円まで保険金が受け取れます。

消極損害については、残った障害の程度により14段階の等級が付けられ、本来は得られたはずの収入に喪失率という割合を掛けて損害を計算。(働ける年齢は67歳までの仮定)

喪失率については、一級で100%、7級で56%、、12級で14%といった具合になっていますから、年収600万円で12級なら600万円×(100%-14%)=516万円が1年あたりの保険金額となります。(但し、金利は差し引かれます)

慰謝料に関しても等級での取り決めがなされており、1級で1600万円、7級で409万円、12級で93万円といった具合です。

但し、後遺障害事故事故の場合は後遺症の等級により、保険金の支払額の上限が変動する特色があり、1級ならば3000万円~4000万円ですが、7級では1051万円、12級では224万円までと決められおり、保険給付額の合計がこの上限金額を上回ることはありません。

 

傷害事故

そして最後が、後遺症を伴わない怪我の場合となり、その限度額は120万円までとなります。

積極損害については、治療費の実費の他、入院中の雑費が一日1,100円、付添費用が一日4,100円、看護費が一日2,050円、そして病院までの交通費が認められます。

消極損害に関しては休業損害として5,700円~19,000円が支払われることになり、慰謝料については一日あたり4,200円です。

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自賠責保険まとめ

さてここまで、自賠責保険に関する知識をご紹介して参りました。

あくまでも被害者救済を目的とした保険となりますので、実際に請求される賠償額には及ばない部分も多々ありますが、保険の掛け金から考えればかなり良心的な給付額となっているのは間違いありません。

また任意保険ですと、事故の過失割合に合わせて支払われる保険金額も減額されてしまいますが、自賠責保険では被害者に重過失(70%未満の過失)が無い限りは、保険金額が減額されないという利点もあります。(因みに過失70%以上の場合は2割~5割の減額)

なお、「自賠責保険に入っていない盗難車や車検切れの自動車に轢かれた場合は、保険金が受け取れない」と言われていますが、これは「誤り」であり、国を相手取って訴訟を起こせば、自賠責保険に加入していたのと同様の保証を受けることが出来ますから、是非覚えておいて下さい。

ではこれにて、「自賠責保険とは?という疑問にお答えします!」の記事を締め括らせて頂きたいと思います。

 

 

参考文献

(有)生活と法律研究所編(2015)『交通事故の法律知識』自由国民社 368pp ISBN978-4-426-11950-8

 

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