私たちの生活に常に暗い影を落としているのが大地震の恐怖です。
2011年の東日本大震災以降も、2016年には熊本大地震が発生していますし、世界各国でも大きな地震が数多く発生していますよね。
また各行政は独自の地震予測を発表しており、地域によっては10年以内に大地震が発生する確率が80%以上なんて恐るべき報告までなされています。
こうしたデータを目にすると、災害時の避難経路の確保や非常食の用意など、様々な対策を行う必要性を痛感させられるものですが、地震発生後の生活を考えると損害への補償や賠償などについても非常に気になるところですよね。
そこで本日は「地震被害に関する法律知識をお届け!」と題して、震災に直面した際の法律問答をお届けすることに致しましょう。
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地震関連の法律
ではまず最初に、我が国で定められている地震関連の法律についてご紹介して参りましょう。
建築基準法
建築基準法と聞くと、家を建てる際の法律というイメージが強いかと思いますが、国土が狭く、地震の多い我が国では必然的に「火災と地震に特化した法令」となっているのが実情です。
もちろん、建築基準法が施行された昭和25年当時はまだまだ至らない点も少なくありませんでしたが、昭和55年の耐震基準の見直しなど、多くの改正を通して「世界一」といっても過言ではない厳しい建築基準を定める法律となっています。
災害救助法
この法律は災害発生時に、行政が自衛隊などに救助要請を行うことが出来ることを定めた法律となります。
また、財政が豊かではない行政については、その一部を国が負担することを定めており、どの地域が地震に見舞われても、格差のない支援や救助活動が行えることになっているのです。
災害対策基本法
災害対策基本法は昭和34年に発生した伊勢湾台風の教訓から生まれた法律となります。
この台風では5000人近い死者と、4万人にも及ぶ負傷者が出ており、こうした緊急事態に様々な公共機関が連携して、事態の収拾に当たることを定めた法律です。
なお、非常事態の対応に当たっては各省庁はもちろん、日本銀行や各放送局、電力会社までもが一丸となって対応に当たるルールとなっていますから、被災者にとっては実に頼もしい法令と言えるでしょう。
地震防災対策特別措置法
1995年に発生した阪神・淡路大震災を切っ掛けに施行されることとなったのが、こちらの地震防災対策特別措置法です。
この地震防災対策特別措置法では、各行政に地震防災緊急事業五箇年計画の作成を促したり、今ではすっかりお馴染みになったハザードマップの周知を徹底させるなどの事項が盛り込まれています。
建築物の耐震改修の促進に関する法律
続いてご紹介する「建築物の耐震改修の促進に関する法律」では、地震が発生した際に倒壊の危険のある建物の改築や立て直しについてのルールを定めています。
不特定多数が出入りする建物については耐震診断を義務付け、その結果を公表することを定めたり、指定を受けた分譲マンションに関しては建て替え決議に必要な議決数を緩和するなど、かなり現実的な地震対策を定めているのが特徴です。
隣家の倒壊・延焼
さてここまで、政府が定める地震対策関連の法令を見て参りました。
これまでの記事をお読み頂ければ、数々の法律が私たち国民を守ってくれていることをご理解頂けたことと思いますが、
実際に大地震に直面した際には、家の倒壊や火災など、政府の支援とは別のベクトルでの問題が我々に圧し掛かって来るのもまた事実ですよね。
そこで本項では、被災した際に我々がダイレクトに直面することになる「様々な問題」についての法律問答をお届けしてみたいと思います。
地震による大きな揺れを受ければ、当然発生するのが建物等の倒壊です。
そして自分の家がペシャンと潰される様を見れば、あまりのショックに誰でも呆然としてしまうことでしょうが、その倒壊の原因が倒れた隣家の巻き添えであった場合には、一体その怒りを何処にぶつければ良いのでしょう。
実は法律上、地震が原因で隣家が倒壊し、自分の家が被害を受けたとしても、隣家を相手に損害賠償を請求することは出来ないのがルールです。
地震は自然災害となりますから、例え近隣を迷惑を掛けたとしても、民法で言う不法行為には当たりません。
しかしながら、この理屈が通じるのはあくまで「建物倒壊が本当に地震によるものだった場合のみ」となります。
例えば今にも倒壊しそうな建物を放置しており、これが地震を切っ掛けに倒れた場合には、建物の瑕疵(隠れたキズや欠陥)を放置したという理由で民法717条の工作物責任が建物の持ち主に降り懸かることになるでしょう。
また、この工作物責任は過失の有無に係らず家主が負う(無過失責任)ものとなりますから、「家がそんなに傷んでいるとは知らなかった・・・」なんて言い訳は通じません。
なお、工作物責任はその名の通り建物のみならず、ブロック塀などの工作物にも適応されるルールとなっており、東日本大震災ではブロック塀の倒壊によって受けた被害に対して、「その損害を賠償せよ」という判決が下っています。
一方、火災については失火責任法の規定により、火元の家に重過失がなければ責任を追及することは出来ませんので、地震が原因で発生した火災の延焼で損害賠償が請求出来る可能性は低いと言えるでしょう。
※火災に関する法律知識は別記事「火事の責任に関する法律問答をお届け!」をご参照下さい。
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大家さんは要注意
ここまでのお話をお読み頂き、「そんな責任を負わされることがあるのか!」と背筋に寒いものを感じた方も多いかと思いますが、これが賃貸物件のオーナーさんとなると事態は更に深刻です。
例えば運用しているアパートが地震で倒壊し、入居者に犠牲者が出てしまい、その原因が建物の瑕疵であったなんて場合には当然ながら大家さんは工作物責任による損害賠償を行う義務が生じます。
こんなお話をすると、「しっかりと建物修繕は行っているから大丈夫!」と思われるかもしれませんが、油断は禁物です。
仮に建物の維持管理をしっかりと行っていても、そもそも建物が違反建築であった場合には責任を逃れることは出来ません。
これまでの判例を見ると、建築基準法上の「建築確認」を取得した上、確認の通り工事が行われていることを証明する「検査済み」が取得出来ていれば、『オーナーに責任はない』との判断が下っていますが、今後はそうも行かなくなって来る可能性があります。
例えば熊本大地震では、震度7の地震が複数回発生しており、現在の我が国の耐震基準ではこの規模の地震から建物を守るのは不可能です。
そして、「こうした前例があるにも係らず、建物の補強を行わなかった大家に責任は本当に無いのか?」という意見も出ている様ですから、資力に余裕がある方は出来る限りの地震対策を建物に施すことをお勧め致します。
地震保険と施設賠償保険について
こうした地震関連の法律知識を学んで行くと、来たるべき大地震に非常に不安を感じてしまいますよね。
そしてこうした際に知っておくべきなのが、地震保険に関する知識です。
火災保険などに加入する際には、「一緒に地震保険に加入されませんか?」なんて勧誘を受けることがあるかと思いますが、
実はまだまだ加入者が少ないの実情のようですから、本項ではこの「地震保険」や加入しておくと便利な「施設賠償保険」についてお話して参ります。
地震保険
保険契約を請け負うのはあくまでも民間の保険会社となりますが、被害があまりに甚大な場合に保険金の支払いが滞らない様にするべく、政府が再保険という形式で支払いを請け負う仕組みとなっているのが、この地震保険です。
よって、保険の内容については一定の制限が加えられており、保険対象は居住用の建物のみ(アパート等は含まれるが、工場や店舗は対象外)、保証も加入している火災保険の50%以内とした上、5000万円が上限となっています。(家財については1000万円が上限)
また、保険金の支払についても全損で100%、大半損で60%、小半損で30%、それ以外は5%と細かな規定がなされているのです。
因みに地震保険は単体で加入することが出来ないルールですから、建物が加入する火災保険に付加する形で契約がなされます。
なお、ここまでの解説をお読みになった方の中には、「現状の地震保険の内容のみでは非常に不安」と感じられた方も多いことでしょう。
先程もお話した通り、我が国の地震保険は政府が再保険を行っている関係で、これ以上の手厚い補償を用意している保険は存在しませんが、どうしてもという方には海外の保険会社と直接契約をしてしまうという方法もあります。
もちろん、会社の信用度や為替リスクの問題はありますが、既に実践しておられる方も多い様です。
施設賠償保険
さて、続いてご紹介しておきたいのが施設賠償保険という商品です。
こちらの保険は地震用という訳でもなければ、政府が再保険を行っているものでもありませんが、賃貸物件オーナー様にとっては加入しておくと非常に有利な保険となります。
そもそも施設賠償保険とは、不特定多数が出入りするビルなどで、エレベーターが落下して死傷者が出た場合や、自動ドアに人が挟まれたなど、保険対象の施設の不備で賠償責任が発生した場合に保険金が出る商品です。
そして、この保険をアパートなどに掛けておけば、「大家さんは要注意」の項でご説明した建物の瑕疵による損害の賠償(工作物責任)に対しても、保険金が支払われる可能性があります。
因みに施設賠償保険は、1億円程度の保険金額なら非常に安価な掛け金で加入することが出来ますから、収益物件をお持ちの大家さんには是非お勧めしたい保険商品なのです。
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地震被害の法律知識まとめ
さてここまで、地震に係る様々な法律知識をまとめて参りました。
もちろん大地震が発生した際には、まず守るべきは自分と家族の命ということになるでしょうが、その後には様々な問題が山積することとなりますから、今の内に充分な知識を身に付けておきたいところですよね。
何時襲い掛かってくるか判らない地震災害にしっかりと備え、心に余裕を持ちながら復興への道を切り開いて行ける様に心掛けたいものです。
ではこれにて、「地震被害に関する法律知識をお届け!」の記事を締め括らせて頂きたいと思います。
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