尋問とは

 

映画やドラマの法廷劇を見ていると、弁護士や検察官が証人や被告をその話術で追い詰めて行くシーンを良く見掛けます。

そしてこんな場面を目にすると「絶対に証人なんかになりたくない・・・」といった思いや、「実際の裁判で本当にこうした苛烈なやり取りが行われているの?」なんて感じてしまうことも多いはずです。

そこで本日は「尋問とは?裁判の気になる疑問にお答えします!」と題して、証人尋問や被告人質問の実情やルールについて解説してみたいと思います。

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尋問って何だろう

ではまず最初に、「そもそも尋問って何だろう?」という点からお話を始めて行きましょう。

「尋問」なんて表現を使うと、何やら恐ろしげな感じもして来ますが、裁判における尋問は「証拠調べの一つ」に分類されるイベントとなります。

裁判というと「尋問がメイン」というイメージが強いかもしれませんが、裁判で最も重要視されるのは『如何に証拠を積み上げ、事実を明らかにしていくか?』という点ですから、

民事訴訟であれば書証(証拠となる文書)や検証(証拠となる物品の検証)、刑事訴訟ならば証拠書類に証拠物といった、様々な証拠が法廷に提出されることになるのです。

そして、そんな数多い証拠の一部として「人間に質問することによって導き出される証拠」が位置付けられており、これが証人尋問や本人尋問、鑑定人尋問・被告人質問なんて呼ばれ方をしているのです。

よって、裁判全体に尋問が及ぼす影響は「それ程大きくない」ケースも、以外に多いのが実情と言えるでしょう。

但し、その他の証拠が乏しい場合には尋問のウエイトがどうしても大きくなりますし、涙ながらに被害者が苦しみを訴える様は、裁判官や裁判員の心に強く響くものですから、決して軽んじて良いものでもないのです。

実際の裁判における尋問

さて続いては、実際の裁判で尋問がどの様に行われているかについて解説をして行きたいと思いますが、実は民事訴訟と刑事訴訟ではその扱いもかなり変わって来ます。

そこで以下では、それぞれのパターンに分けたご説明をして参りましょう。

刑事訴訟での尋問

以前に書いた「証拠能力と証明力について解説します!」の記事でも触れましたが、刑事訴訟と民事訴訟では証拠に対する考え方がまるで異なります。

民事訴訟では、当事者同士(原告と被告)が互いに「間違いない」という事実は、裁判でもそのまま事実として認められますし、証拠として提出すれば、その全てが採用されるルールです。

しかしながら犯罪認定を行う刑事訴訟では、例え当事者間に事実に関する合意があっても、それをそのまま事実と認定する訳には行きませんし、提出される証拠についても採用するべきか否かの厳格な審査が必要となって来ます。

よって、今回のテーマである尋問(人間による証拠・人証)についても、民事訴訟に比べ遥かに厳しいルールが定められているのです。

では刑事訴訟において行われる尋問にどの様なものがあるかと言えば、それは証人尋問、鑑定人尋問、被告人質問の3つが主なものとなります。

証人質問は事件の目撃者や関係者、時には被害者自身が法廷に立ち、弁護士や検察官からの尋問を受けることになるでしょう。

それに対して鑑定人質問は、各分野専門家が法廷に呼ばれ、証拠や事実に関する鑑定結果を述べるイベントであり、例えば「犯罪を行った者の責任能力が問われる場合」などには、その精神鑑定を行った専門家が裁判で意見を述べるという訳です。

そして3つ目が、被告人自らが質問を受ける被告人質問であり、事件に対する弁明や反省の弁などを述べる機会となっています。

民事訴訟での尋問

続いては民事訴訟における尋問についてとなりますが、前項でもお話しした通り、民事ではあらゆる証拠を提出出来るルールですから、当事者(被告・原告)が望めばあらゆる人間に証言を行わせることが出来ます。(相手側の弁護士や裁判官の意向もありますので「自由に」とは行きませんが)

そして民事訴訟で行われる尋問は、証人尋問と本人尋問の2種が主なものです。

証人尋問は刑事訴訟と同様に証人が出廷して証言を行いますが、尋問をして来るのは被告側・原告側各々の弁護士となるでしょう。

また、事件の性質によっては専門家が出廷して意見を述べることもありますが、刑事訴訟における鑑定人尋問とは異なるものとなりますので、あくまでの証人尋問の一部に含まれます。

なお、民事訴訟では被告人・原告人が各々尋問を受けることとなるのも特徴的です。

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尋問のルール

ここまでお話しして来た様に、刑事裁判・民事裁判それぞれで様々な尋問が行われることになりますが、裁判という厳格なイベントにおいては尋問に対して詳細なルールが定めらています。

そこで本項では、尋問に関するルールについて解説して参りましょう。

嘘の証言

裁判にて尋問を受ける側が非常に気なるのが嘘の証言、つまり偽証罪に関する問題かと思います。

尋問を受ける際には、刑事裁判・民事裁判を問わず「宣誓」を行い、嘘の証言を行わない誓いを立てることになりますが、宣誓を行った上で嘘の証言を行えば、偽証罪に問われることになるのです。

因みに偽証罪の量刑は「3ヶ月以上10ヶ月以下の懲役」というものになりますから、その罪はかなり重いものと言えるでしょう。

なお偽証罪に問われるのは、「刑事裁判で偽りの証言をした時のみ」なんて噂を耳に致しますが、これは誤りであり、民事・刑事を問わず罰せられることになります。(但し、理屈として成立し得るというだけで、民事訴訟で偽証罪に問われるケースはまずありません)

また、刑事・民事を問わず偽証罪が成立するのは証人に対してのみであり、裁判の当事者(被告人・被告・原告等)が嘘の証言を行っても、罰せられることはありません。

※ただ、起きてもいない犯罪をでっち上げ、無実の人間を告訴した場合などには虚偽告訴罪(3ヶ月以上10ヶ月以下の懲役)などの罪に問われます。

さて、こんなお話を聞くと裁判で証言するのが恐ろしくなってしまいますが、一体どこからが「嘘の証言」とみなされてしまうのでしょうか。

実は偽証罪では、「故意に自分の記憶と異なる証言をすること」が罪に当たるとしています。

よって、記憶違いが勘違いは偽証罪に問われることはありませんし、仮に記憶と異なる証言をしたとしても、故意に嘘をついたことを立証するのは非常に困難となるため、そう簡単に罰せられることは無いのです。

尋問の方法

テレビドラマなどを見ていると、相手側の弁護士が「異議あり!誘導尋問です!」なんて発言を行うことがありますが、こうしたやり取りは本当に行われているのでしょうか。

また、誘導尋問と言われても「一体どこが誘導だったのか?」とよく理解できない場合もありますよね。

まず誘導尋問についてですが、こらは民事裁判、刑事裁判共に反対尋問を除いて禁止という扱いになっています。(但し、特別な事情がある場合は許可されることもある)

なお反対尋問とは、自分と反対の立場の者が呼び出した証人への尋問(簡単に言えば、敵側の証人に対する尋問)を指しますから、「味方の証人」には誘導尋問は不可、「敵の証人」には誘導尋問可能ということになるでしょう。(味方への尋問は「主尋問」といいます)

因みに誘導尋問とは、質問への答えが「はい、いいえ」で答えられる質問 を指します。

仮に傷害事件であれば、味方の証人に対して「彼が殴ったのを見てませんよね?」と聞くのはNGということです。

そして、誘導尋問にならない様に質問するなら、「貴方はその時、彼が何をしたと思いましたか?」なんて聞き方をするのが適切でしょう。

また、誘導尋問に似た言葉で「誤導尋問」というものもあります。

こちらは証人が既に否定して内容に対して、まるで肯定しているかの様な聞き方をする尋問方法です。

例えば、「私は見ていない」と言っている証人に、『先程は見ていると言っていましたが・・・』といったカマを掛ける様な尋問形式であり、こちらも原則禁止行為となります。

さて、こうした禁止行為が行われた場合には、当然「異議あり!」となりそうなものですが、実際の裁判では誤導尋問はともかく、誘導尋問は意外にスルーされることが多いの実情の様です。

もちろん、原則禁止されている行為であることは100も承知していますが、裁判の争点に係わらない内容に関しては誘導尋問の方が早く話を展開出来るというのが、その理由となります。

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尋問とは?まとめ

さてここまで、裁判における尋問について解説を行って参りました。

ドラマや映画を見ていると、証人として出廷するのは非常に恐ろしいイメージがありますが、現実にはそれ程重たい雰囲気ではないケースも多いことをご理解頂けたことと思います。

但し、裁判は当事者たちにとって人生の分かれ目ともなるイベントですから、「気分は気楽に、心は真剣に」という姿勢で、真摯に発言を行って頂きたいところです。

ではこれにて「尋問とは?裁判の気になる疑問にお答えします!」の記事を締め括らせて頂きたいと思います。

 

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