証拠能力と証明力

 

人との係わりの中で、時折発生する厄介な問題と言えば「言った言わない」の争いですよね。

家族や親しい友人との間のことであれば、「そんなこと言ったっけ?」で済まされることも多いでしょうが、ビジネスシーンや近隣トラブルなどの局面でこうした問題が出て来ると、非常に厄介なこととなるでしょう。

そして、こうしたトラブルが裁判など発展した場合には、その証拠を巡って争いが繰り広げられることも珍しくありません。

こうした事態を避けるべく、「ここぞ!」という時には極力証拠を残す様に心掛けておられる方も多いことと思いますが、「自分が残している証拠にそもそも証拠能力があるのか?」なんて不安に駆られることもありますよね。

そこで本日は「証拠能力と証明力について解説します!」と題して、裁判などで有効と認められる証拠や、そうではない証拠の違いなどについてお話しして行きたいと思います。

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証拠能力と証明力の違い

では早速、「どんなものが証拠として採用されるのか」といった解説を進めて行きたいところですが、より理解を深めて頂くために、まずは「証拠能力」と「証明力」という言葉の意味から解説して参りましょう。

パッと聞くと、証拠能力も証明力も同じように感じてしまうかもしれませんで、実はその意味は全く異なるものとなります。

まずは「証拠能力」についてですが、こちらは『そもそも対象が証拠となり得るか、否かの能力』を指す言葉です。

例えば、AさんがBさんの自転車を盗んだ証拠として、「Bさんが自転車愛好家であることを証明する写真」を提出しても、これは証拠になりませんよね。

そして、こうした「証拠として相応しくないもの」については、『証拠能力がない』と判断される訳です。

一方、証明力とは『証拠能力があるものについて、証拠としてどれだけの威力があるか?』を指す言葉となります。

先程の例で言えば、「BさんがAさんのものと同型の自転車を乗り回している写真」と「BさんがAさんの自転車を盗むシーンが映った動画」という二つ証拠があった場合には、後者の動画の方が『より証明力が高い証拠』ということが出来るでしょう。

この様に、証拠能力とは「証拠となる能力があるか、否か」であり、証拠力とは「証拠能力があることを前提に、証拠としてどれだけ威力(価値)があるか」を表す言葉なのです。

因みに裁判においては、当事者双方が提出した証拠を基に事実関係の認定が行われていくことになりますが、まずは証拠能力の有無が問われ、証拠として採用された後に証明力の評価が行われていくことになります。

但し、ここで注意が必要なのが民事訴訟と刑事訴訟では、証拠の扱いが大きく異なるという点です。

民事訴訟では、例え提出される証拠に証拠能力がなくても、提出するのは自由です。(当然、提出しても判決に及ぼす影響は少ないでしょうが)

一方、刑事訴訟では証拠能力の無い証拠はそもそも採用されることがありません。

更には例え有力な証拠であっても、状況によっては「証拠能力なし」との認定を受けてしまう場合もあるのです。

違法収集証拠排除法則・伝聞証拠禁止

前項にて、刑事訴訟の場合には例え充分な証拠力を持っていても、「証拠能力がない」と判断されるケースがあるとお話し致しましたが、具体的にはどんなパターンが考えられるのでしょう。

まずご紹介するのが、違法収集証拠排除法則に触れる証拠となります。

突然難しい言葉が出て来ましたが、簡単に言えば「違法な捜査手順によって集められた証拠は、証拠能力なし」と判断するという意味です。

例えば警察の取り調べで、散々脅しをかけられ、無理やり自白をした場合などがこれに当たるでしょう。

また、電話を盗聴したり、対象者をGPSで追跡して得た証拠も、この違法収集証拠排除法則に触れるものとなります。

よって現実の裁判でも、非常に有力な証拠であるにも係わらず、証拠としては却下されてしまうケースが度々存在するのです。

そして、もう一つ証拠能力なしと断じられてしまうのが、伝聞証拠禁止の原則によるものとなります。

例えば「被疑者が現場から走り去るのを見た!という話を聞いた」なんて証言は、伝聞形式での証言となりますので、その証拠能力はないとされてしまう訳です。

但し、裁判の前に当事者が亡くなってしまっている場合などには、どうしても伝聞分形式の証言が必要となって来ますから、こうしたケースでは例外的に証拠として採用されることになります。

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メールやFAX等の証明力について

ここまで解説にて、法律上「証拠がどんな扱いを受けるものであるか」についてご理解頂けたことと思いますがので、本項ではメールやFAX等の証明力についてお話しして参りましょう。

証拠としてのメールやSNS

多くの方がスマホやパソコンを利用している現代においては、メールやSNSは重要な連絡ツールとなりますから、当然裁判などでそのやり取りが証拠として提出されることも少なくありません。

そこで気になって来るのが、こうしたメール等の証拠能力や証拠力の問題です。

当然、送られて来たメッセージが自分の手元にデータとして残っている訳ですから、多くのケースでその証拠能力が認められます。

但し厄介なのが、相手が「そのメールはねつ造されたものだ!」と言い出した場合です。

こうなると相手から来たメッセージが、間違いなく本人から送られたものであることを証明しなければならなくなりますよね。

もちろん、現在は技術が進んでいますから、相手のスマホやパソコンを解析すれば、証明は難しくありませんが、証拠の隠滅を図られると少々厄介です。

また、メールならプロバイダー、アプリならアプリの運営元に照会を行うという方法も有効ですが、時間が経つと記録が破棄されてしまうこともありますので、是非ご注意頂ければと思います。

証拠としてのFAX

続いてご紹介するのがFAXの場合についてです。

少々時代遅れの機器といったイメージもあるかもしれませんが、ビジネスの場ではまだまだ現役ですから、FAXで送られた文書が証拠として提出されることも珍しくありません。

こちらもメール同様、相手が送ったことを認めれば、高い証拠力を持つことになりますが、問題はやはり「ねつ造」と言われた場合です。

メールと異なり、電話会社には送受信の記録しか残りませんので、これを証明するのは少々手が掛かるでしょう。

また反対に、自分が送っていない文章を「送られて来た」と主張される可能性もありますから、こうしたトラブルを避けるべく、送る文書に印鑑を押しておくなどの工夫も必要かと思われます。

相手に無断で行われた録音や動画

世間では、「相手に無断で録音した音声には証拠能力がない」なんて話を耳に致しますが、これは本当の話なのでしょうか。

まず結論からも申し上げれば、これは多くのケースで「デマ」ということになると思います。

民事訴訟では、「あらゆる証拠が証拠能力あり」と見なされるのが原則ですし、刑事訴訟でも防犯カメラの映像などは立派な証拠です。

但し、警察が取り調べでのやり取りを密かに録音したり、電話を盗聴していた場合などは、違法収集証拠排除法則によって、証拠として採用されない場合もあるでしょう。

そして民事訴訟でも、証拠として採用こそされるものの、裁判官の心証はあまり良いものとならないケースも多い様ですから、証明力としては少々パワーダウンする可能性もあります。

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証拠能力と証明力まとめ

さてここまで、証拠能力と証明力等のテーマでお話をして参りました。

日常生活でも「証拠があるのか?」なんてフレーズがよく飛び出しますが、法律上の証拠の考え方とはかなり異なる面があることにお気付き頂けたのではないでしょうか。

また裁判は、こうした証拠を一つ一つ丁寧に積み上げ、事実を明らかにしていく作業そのものとなりますから、トラブルなどに際しては有効な証拠を出来る限り集めることが重要かと思われます。

ではこれにて、「証拠能力と証明力について解説します!」の記事を締め括らせて頂きたいと思います。

 

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