交通事故と示談

 

私たちの身の上には、ある日突然、とんでもない不幸が降り懸かって来るものです。

病気や金銭トラブルなど襲ってくる不幸も様々ですが、その最たるものと言えば「交通事故」なのではないでしょうか。

過去記事「交通事故発生直後の法律知識」では、事故が起こった際に行っておくべき行動や、注意点などをご説明致しましたが、今回は交通事故と示談の法律知識をご紹介!」と題して、事故後にやって来る『示談』のあれこれについてお話してみたいと思います。

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示談とは何なのか

「交通事故で示談」と聞くと、『何だか怖い』というイメージをお持ちの方も多いかと思いますが、示談という行為自体を恐れる必要はありません。

交通事故を起こした加害者側には、大きく訳て3つの責任が降り懸かるとされます。

それは「刑事上の責任」、「行政上の責任」、そして「民事上の責任」の3種です。

刑事上の責任は、人身事故となった際などに生じる「業務上過失傷害」や「危険運転致死傷罪」などの罪に関する責任となり、行政上の責任は「一時停止違反」や「信号無視」などの免許の点数に係る責任となります。

そして最後の「民事上の責任」が、怪我を負わせてしまった相手への「治療費の支払い」や「仕事の休業補償」などに対する責任です。

この民事上の責任に関しては、裁判を起こして法廷闘争に持ち込まない限りは、「示談」にて決着を付けるしかないのが通常となります。(示談は法律的には「和解契約」と扱われます)

例え保険会社が介入しようと、弁護士が代理人になろうと話し合いで解決は全て「示談」ですから、示談自体を恐れる必要はありません。

但し、不用意に示談にしてしまうと、後々トラブルに発展することも少なくありませんから、この点だけは大いに注意が必要でしょう。

なお、「一度示談となってしまうと、後からどんな深刻な後遺症が出ようとも、その内容を覆せない」なんて噂も聞きますが、これは誤った知識。

判例を見れば、示談を行った後に発生した後遺症に対して、支払い命令を行っている例(昭和43年最高裁判決)もありますから、ご安心頂ければと思います。

しかし、後から問題が生じて裁判を起こすのは非常に手間ですから、最初から確実な方法で示談を行うに越したことはないでしょう。

 

示談の際の注意点

では、一体事故の相手方と示談を行う際、具体的にどんな点に注意すれば良いのでしょう。

この項では具体的に示談書取り交わしのポイントを整理してみたいと思います。

 

怪我を負っている場合には示談を焦らない

さて、まず注意すべき点として挙げられるのが、示談のタイミングを焦らないということです。

自動車の損害でしたら、修理工場に持ち込めば直ぐに修理の見積もりが出て来ますが、人間の身体はそうは行きません。

特に怪我の場合には、時間が経ってから新たな後遺症が発生してくることも珍しくありませんし、前項でご説明した「示談完了後に裁判所が治療費の支払命令を行った判例」も、同様のパターンでした。

よって、異なる医療機関で何回か検査を受けた後、充分な経過観察を終えてから示談を行うのというのが、ベストな方法でしょう。

なお人身事故となった場合、怪我を負わせた側は刑事上の責任を追及されることになりますが、この裁判の際、「民事上の和解(示談)が済んでいるか否か」によって、罪の重さが大きく変わって来ると言われています。

こうした事情から、相手方が示談の成立を急ぐ場合も多いですが、ここはしっかりと観察期間を設けるのが得策です。

 

時効に注意

「示談をする前にしっかりと期間を置きましょう」とご説明したばかりですが、時間の置き過ぎも問題です。

交通事故に限ったことではありませんが、損害賠償(不法行為による)の請求期間には時効が存在しており、その期限は3年となっています。

また、保険会社へ保険金請を請求できる権利も、同じく3年で時効を迎えてしまいますので、あまりに長い様子見はむしろ不利になるでしょう。

なお、相手方との示談金の折り合いが付かないという場合でも、3年の時効期限は有効となりますから、この点もご注意を。

但し、調停や訴訟となっていれば時効は中断されますから、期限が迫って来た場合には、法的手続きに踏み切るのも有効な手段となるでしょう。

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資料集めを怠らない

怪我に対する十分な経過観察が完了すれば、より具体的な示談金の算出を行わなければならなくなります。

また、相手もお金を払う以上は、「それなりの根拠を求められる」のも道理です。

そこで必要となって来るのが、事故に関する様々な資料集めとなるでしょう。

まず必要になるのが、警察より発行される事故証明書、そして治療に際して発行された診断書や医療関係の領収証(薬代やりリハビリ代)となります。

また、病院の通院に有した電車やタクシーの領収証も用意しておく必要がありますし、怪我などで仕事を休まなければならかったなら、その間の休業補償を請求するために収入証明も必要となるはずです。

なお、同乗者が亡くなられて場合などは、自分が正式な相続人であることも証明しなければならなくなりますから、遺産分割協議書や戸籍謄本などの用意を求められる可能性もあるでしょう。

 

示談書の内容を専門家に相談

さて、相手方から示談金の金額が提示され、示談書の案が出来上がったなら、次は専門家のチェックを受けるようにしましょう。

専門家と言えばやはり「弁護士」ということになりますが、正式な依頼を行えばそれなりの費用が掛かるもの。

そこでお勧めしたいのが、行政などが行う無料の弁護士相談会などで、相談をしてみることです。

これらば費用は掛かりませんし、専門家のアドバイスも聞くことが出来ますから、実に心強いはず。

また一回、一人の弁護士の意見を聞くのではなく、他の相談会や交通事故の無料相談所を利用し、少なくとも二人、出来れば三人以上の意見を総合して判断するのがお勧めです。

なお、こうした相談を繰り返す内に「私が代理人になれば、更に高額の賠償金を取れますよ」なんて申し出をして来る弁護士も現れるでしょうから、こうした機会は逃さないようにしましょう。

私の経験上、保険会社同士で交渉した示談金より、弁護士を介しての示談金の方が高額であったケースはしばしばありますから、示談金の額に不満がある時は弁護士に依頼するのも有効です。

但し、弁護士によっては報酬額が掛かり過ぎてしまうこともありますから、事前にギャラについても確認を怠らない様にしましょう。

 

可能であれば公正証書に

さて、こうして示談が話がまとまれば後は書類の取り交わしをするだけとなりますが、ここで可能なら行っておきたいのが公正証書による示談書の取り交わしとなります。

もちろん、その場で全額を支払って貰えるならば問題はありませんが、示談金が高額となれば分割払いとなる可能性もあるはず。

最初の数回は支払ってくれたけど、途中で滞ってしまったなんてことの無いように、公正証書にて示談書を作成するのがベストです。

今後公開予定の「公正証書とは?という疑問にお答えします!」という記事にて詳しくご説明していますが、公正証書で約束された事柄には強い執行力が付加されていますから、万が一分割示談金の支払が滞った際には、一気に強制執行まで持ち込むことが可能。

面倒で時間の掛かる裁判なども必要ありませんから、可能な限り示談書は公正証書にて取り交わしたいところです。

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交通事故示談まとめ

ここまで交通事故に関する示談に関しての法律知識、注意点などをご説明して参りました。

事故に遭っただけでも大変な不幸であるのに、その賠償をしっかり受けられないなんてことになれば、正に「泣き面に蜂」ですから、示談書の取り交わしだけは慎重を期したいところです。

この記事が皆様の事故処理に少しでもお役立て頂ければ幸いです。

ではこれにて、「交通事故と示談の法律知識をご紹介!」の記事を締め括らせて頂きたいと思います。

 

 

参考文献

(有)生活と法律研究所編(2015)『交通事故の法律知識』自由国民社 368pp ISBN978-4-426-11950-8

 

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