家族の扶養

 

何時の世でも、親子や兄弟姉妹が助け合って生きて行く姿は、非常に心温まるものがありますよね。

少子化や核家族化が叫ばれる昨今ではありますが、例え周りを取り巻く環境が変わったとしても、家族間の情愛の本質が変化することはないはずです。

そして、こうした家族の助け合いの精神についても、日本の法律は様々な取り決めを行っていることを皆さまはご存じでしたでしょうか。

そこで本日は「家族の扶養に関する法律知識をお届け!」と題して、民法に定められた「扶養」について解説してみたいと思います。

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親族扶養とは

「法律に家族の助け合いに関する規定がある」というお話を聞いて、驚かれた方も多いのではないでしょうか。

この規定が書かれているのは、民法730条の「直系血族及び同居の親族は、互いに扶け合わなければならない」という部分や、民法877条の「家族の扶養義務」、そして民法752条の「夫婦の扶養義務」等の箇所であり、家族間の助け合いを『義務』として位置付けているのです。

では、そもそも「扶養」とはどんな意味なのでしょう。

国語的に言うならば、扶養は「一人で生きて行けない者に対する援助」という意味になりますが、実際の社会で行われている扶養には「公的な扶養」と「私的な扶養」があるとされています。

公的扶養とは、国や社会が用意している生活支援制度を指しますから、生活保護などがこれにあたるでしょう。

これに対して私的扶養とは、親が子の世話をし、親が年老いれば、反対に子が親の面倒を見るといった家族間での扶養を指すことにないます。

もちろん、「国民全てが生活保護を受けられる程に、潤沢な予算がある国家」ならば、私的扶養は各々の判断に任せるというスタンスも可能となるのでしょうが、限られた予算の中で社会を維持して行くには、ある程度「私的扶養を法律によって義務化する必要」が生じてしまい、こうした背景から民法に扶養義務の条項が加えられた様です。

さて、こうした経緯で法律に定められた扶養義務ですが、私たち国民は誰にどの程度の扶養を行う必要があるのでしょうか。

 

扶養の範囲と程度

では具体的に、法律は私たちにどんな扶養を行えと言っているのでしょうか。

まずは法令が扶養の義務を課している範囲についてですが、自身の配偶者と直系血族及び兄弟姉妹というのが原則的な範囲となります。

更に具体的な例を示すとすれば、既婚男性の場合には、妻・子供、両親に祖父母、そして兄弟姉妹がこれにあたることになるでしょう。

但し民法877条の2項には、家庭裁判所が認めた場合に限り、三親等内の親族もこれに含まれることとなりますから、結婚した相手の両親や兄弟姉妹はもちろん、甥姪の配偶者、叔父叔母の配偶者まで含まれることになるのです。

こんなお話をすると、「そんな広い範囲まではとても面倒を見きれない!」と思われるかもしれませんが、これはあくまで特殊なケースとなりますから、通常は「配偶者と直系血族(両親・子供)及び兄弟姉妹」と考えておけば良いでしょう。

ではこれらの家族に対して「どの程度の扶養を行わなければならないのか」という点についてご説明致します。

まず前提として申し上げておきたいのは、法律が言う扶養とは原則として「経済的な扶養」を意味しているという点です。

人の面倒見るとなれば、介護や介助なども当然付いて回る作業となるはずですが、こうした作業を法律が強制することは認められませんので、あくまでも金銭的な援助が前提となります。

そして判例を見て行くと、自分の配偶者と未成年の子供に対する扶養と、両親や兄弟に対する扶養には、その程度に大きな差があると考えられています。

「配偶者と未成年の子供」に対する扶養義務は「生活保持義務」と呼ばれるもので、『自分自身と同じ生活レベルを提供しなければならい』という厳しい義務です。

よって、自分は贅沢三昧なのに、妻や子供が貧しい生活をしているというケースでは、扶養義務違反と判断されるのです。

これに対して、成人した子供が両親や兄弟姉妹に負う扶養義務を「生活扶助義務」と呼んでいます。

こちらは「人として最低限度の生活レベルが維持出来れ良い」という程度のものとなりますし、判例を見れば『自分の生活を切り詰めてまで行う必要もない』とされているのです。

つまり、「両親や兄弟が生活に困っている様なら、出来る範囲内で助けて上げる」という程度で、充分に義務を果たしていることになるでしょう。

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家庭裁判所と扶養義務

さて、日本の法律が定める扶養義務の概要についてご理解頂いたところで、ここからは「家庭裁判所と扶養の関係」についてお話して参ります。

過去記事「家庭裁判所とは?という疑問に答えます!」にてご説明した通り、家庭裁判所は男女の問題や家庭の問題を専門に扱う裁判所です。

よって今回の扶養に関する問題を担当するのも家庭裁判所となっており、日々様々なトラブルの解決にあっています。

例えば両親が齢をとって、誰かが面倒をみなければならなくなっているにも係らず、子供たちが責任を押し付けあっている場合などには、裁判所に相談することで、「誰がどの程度の費用負担をするか」などの判断を行ってもらうことが出来ます。

また、自分が困窮しているにも係らず、家族が誰も助けてくれない場合には、裁判所に訴え出ることで「扶養を請求」をすることだって可能となるのです。

なお扶養を請求するケースの中には、身寄りがいないお年寄りが、既に結婚している一人息子の死亡を機に、残された妻に対して扶養の請求を行い、裁判所がこれを認めたケースさえありますから、配偶者が死亡しても籍をそのままにしている方には少々注意が必要でしょう。(このパターンでは婚姻の終了を宣言することで、扶養義務を回避できますが)

 

扶養する者と、扶養しない者の関係

また、兄弟などがいる場合については「一体誰が親の面倒を見るか」についても争いが生じることがあります。

もちろん基本的には、兄弟が話し合って世話をする人間と、負担する費用などを取り決めるべきなのですが、必ずしもスムーズに全員が納得する訳ではありません。

前項でお話した様に、話し合いがまとまらない場合には家庭裁判所に負担割合を判断して貰うことも出来るのですが、親の感情などを考えて「1人で負担を背負い込んでいる」という方も多く見掛けます。

ではこうしたケースにおいて、面倒を見ている者が、面倒を見ていない者に対して、費用を請求したり、親が亡くなった際の相続分を多くしてもらうなどの請求を行うことは可能なのでしょうか。

まず、親が存命中の費用請求については、家庭裁判所はこれを認める判断をしています。

そして、面倒を見た者が相続分を多く貰えるかについては、親の財産形成に助力した者に認められる「寄与分」という考え方を援用して、「介護等も寄与に当たる」という見解を示していますから、行った介護や援助の度合いによって相続分の増加が認められるでしょう。

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扶養まとめ

さてここまで、法律上定められた「家族間の扶養」について解説して参りました。

自分の配偶者や未成年の子供の面倒を見るのは当然のこととしても、高齢化社会を迎える日本にでは、今後親子間、兄弟姉妹間での扶養に関する多くのトラブル発生が予想されますから、これを機会に法律知識を身に付けておいて頂ければと思います。

なお、どうしても家族の扶養が難しい場合には、もう一つの手段である公的な扶養、つまりは生活保護なども遠慮なく利用すべきでしょう。

扶養の問題は、あくまで家族間の愛情が解決の鍵となりますが、無理をし過ぎれば一族共倒れなんてことも有り得ますから、現実と理想の隙間を上手に埋めながら、家族愛を育んで頂ければと思います。

ではこれにて、「家族の扶養に関する法律知識をお届け!」の記事を締め括らせて頂きたいと思います。

 

 

参考文献

自由国民社編(2015)『夫婦親子男女の法律知識』自由国民社 472pp ISBN978-4-426-12069-6

 

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