何時我が身に降り懸ってくるかもしれないのが、交通事故という災難ですよね。
被害者となるのは非常に辛いことですが、その加害者もまた、刑事上の責任、行政上の責任、そして民事上の責任を負うことになりますから、場合によっては人生が滅茶苦茶なってしまうということもあるようです。
そこで自動車の運転者は、自賠責保険はもちろん、任意保険にもガッチリ加入した上、事故を起こさないように細心の注意を払うこととなります。
しかしながら判例を見ていると「自分は車を他人に貸しただけ」、それどころか「盗まれた」にも係らず、被害者に対して賠償金の支払を命じられたケースが山ほどあるのです。
そこで本日は、「交通事故の所有者責任について!」と題して、カーオーナーであれば絶対に知っておくべき運行供用者責任について解説してみたいと思います。
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どうして車の所有者も責任を負うのか?
冒頭のお話をお読みになり、「貸したのならまだしも、盗まれた場合にまで責任を追及されるのは納得いかない!」とお思いの方も多いことと思います。
確かに車を所有する者にとっては信じがたいお話であるかと思いますが、これは紛れもない事実です。
こうした自動車の所有者に対する事故の責任追及が可能となっている背景には、昭和30年に施行された自動車損害賠償保障法(自賠法)にて定められた「運行供用者責任」なる考え方が原因となっています。
この法律が制定されるまで、交通事故にあった被害者は民法709条に定められた「不法行為責任」を立証することにより、加害者に対して損害賠償を求めるのが通常でした。
しかしこの「不法行為責任」を立証するのは非常に困難である上、時代は高度経済成長期ということもあり、交通事故の数も鰻登り。
そこで国は、自賠法という法律を作ることで、ほぼ無条件(ほぼ無過失責任)に交通事故被害者が加害者より損害賠償を受けられるようにしたのです。
そしてこの自賠法の3条には「自己のために自動車を運行の用に供する者は,その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは,これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる」という条文が加えられおり、事故を起こした者はもちろんのこと、自動車の所有者にまで賠償責任を課することにしました。(運行供用者責任)
この運行供用者責任導入の主旨としては、事故を起こした運転手に損害賠償を命じても、被害者が満足出来るだけの賠償金を払えない可能性がある。
ならば、その運転手の雇い主や所属する法人にも責任を負わせ、被害者の保護を手厚く行おうという考えがあった様です。
しかしながらこの運行供用者責任、現在では誰が運転しているにも係らず、ほぼ100%車の所有者に責任が及ぶ状況を作ってしまっています。
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こんな場合にも所有者の責任が問われた
自賠法による運行供用者責任の考え方をご理解頂けたところで、実際にどんなケースで自動車の所有者が賠償責任を負わされたかについて見て行くことにしましょう。
会社の車で事故を起こした場合
ここまでの解説をお読み頂ければ、会社が保有する自動車で事故を起こした場合に、所有者である会社が責任を問われるのはお判りのことと思います。
しかしながら判例を読み解いていくと、「これは流石に可哀想」と感じてしまうケースにまで賠償責任が認められているのです。
例えば仕事中以外の時に、社員の個人的な趣味で出掛けたドライブで起こした事故についても、裁判所は会社に責任を認めています。
そしてもっと酷い例を挙げれば、会社の規則で車の利用が禁じられている定休日に、無断で営業車を持ち出したケースや、社員ではない社長の息子が勝手に車を運転したケースでも、賠償を命じているのです。
個人所有の車もダメ
さて次に挙げるのが、あくまで「社員が個人で保有する車」で会社に通勤しようとした際に事故を起こしたケースです。
ただこの判例では、事故を起こした社員が営業マンであり、普段から仕事に個人所有の車を利用していたのが判決の決め手となった模様であり、仕事に車を全く利用しないケースでは、会社に賠償責任が生じる可能性は低いと思われます。
下請け会社やフランチャイズもダメ
下請け会社が所有する自動車で、下請け会社の会社の社員が起こした事故でも、親会社の賠償責任を認めた事例があります。
「車の名義が誰であるか」よりも、誰のために自動車を利用していたかの方が重要視される模様。
また、フランチャイズなどで大手の会社の名前が書かれた自動車を運転する加盟店が事故を起こした場合も、親会社に賠償責任が及ぶケースがあるようです。
レンタカー屋さんもアウト
そして自動車の貸出しを事業として行う、レンタカー屋さんも借り手が事故を起こした際は、その責任を逃れることが出来ません。
その為の保険にガッチリ加入していることでしょうが、なかなかに難儀なことです。
盗難車もダメ
「それはいくら何でも酷いだろう」という気がしますが、こちらはケースによります。
つまり、車を盗まれた側に落ち度があれば、盗まれた側にも責任があるというのです。
例えばエンジンを掛けたまま車を離れたケース、エンジンは切っていたが、キーを付けたまま車を離れたなどのケースでは、裁判所は賠償責任の一部を認めています。
友達や子供に貸してもダメ
ここまでお読み頂ければ既に想像が付くと思いますが、当然、お友達や知人に車を貸して事故が発生しても、カーオーナーはその責任を逃れることは出来ません。
そして、親兄弟、免許を持っている子供に車を貸した場合も、裁判所は所有者の賠償責任を認めているのです。
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事故の所有者責任まとめ
さて、ここまで見て来た通り、自動車の所有者は例え他人が運転していても、殆どのケースでその責任を負わされているというのが実情です。
その背景には「被害者の保護が最優先」という考え方があるのは理解出来ますが、オーナーにとっては非常に過酷な条件であることは否定出来ません。
自動車オーナーが責任を逃れられたケースとしては、「全く過失の無い状態で車を盗まれて、事故を起こされた場合」や、「修理に出す際にディーラーの営業マンが自己を起こした場合」などが挙げられますが、多くの場合は何かしらの責任を負わされることとなりますから、「他人に車を貸すのは絶対に止めるべき」というのが結論でしょう。
ではこれにて、「交通事故の所有者責任について!」の記事を締め括らせて頂きたいと思います。
参考文献
(有)生活と法律研究所編(2015)『交通事故の法律知識』自由国民社 368pp ISBN978-4-426-11950-8
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