併合罪とは

 

犯罪は「誰もが憎むべきもの」ではありますが、時には意図せずとも「自分が罪に問われてしまう」ことがあるものです。

また、自分が被害者の立場になった場合には、「加害者がどれくらいの刑罰を受けるのか?」という点は非常に気になる問題となるでしょう。

これまで本ブログでは、様々な犯罪について解説を行って参りましたが、読者の方から多くの質問を頂くのが、一度に複数の罪に問われた際の刑罰についてです。

例えば他人の家に石を投げ込み、窓ガラスを破壊(器物損壊)したところ、その石で家人が怪我を負った場合(傷害罪等)に、「一体どんなペナルティーを受けるのか?」という点については、なかなか想像が出来ませんよね。

そこで本日は「併合罪とは?という疑問にお答え致します!」と題して、複数の犯罪について罪に問われた場合の量刑について解説してみたいと思います。

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複数の罪を犯すとどうなる?

海外の映画やニュースなどを見ていると、罪を犯した者に対して「懲役300年」なんて刑が下されているのを目にするかと思います。

そんな時には、心の中で『そんなに長生きする訳ないだろ!』というツッコミを入れてしまうのがお約束ですが、フッと疑問に思うのが「日本ではそんなに長い刑期を耳にしないない・・・」という点でしょう。

実はアメリカなどでは複数の罪を犯した場合、その一つ一つの罪に定められた量刑を合算して判決を言い渡す制度が採られています。

またフランスでは、複数の罪の内で「最も重い犯罪」で加害者を裁くルールとなっており、実は国によって量刑の決め方は様々なパターンがあるのです。

因みに我が国ではというと、犯した罪の内で重い方の刑期を1.5倍した期間が、量刑の上限とされています。(但し、無期懲役や死刑の場合には適応はありません)

そしてこうした量刑の決め方を「併合罪」と称しているのですが、実は併合罪が適応されるには様々な条件が定められており、条件に合致しない場合には別の方法で刑期が決められることになるのです。

そこで次項では、併合罪が適応されないパターンについて解説をしてみましょう。

 

併合罪とならないケース

以下のケースでは、併合罪(複数の罪の内、量刑が重い方を1.5倍する方式)は適応されないルールとなっています。

 

法条競合

何やら難しそうな用語ですが、簡単にご説明すれば「法律の性質上、1つの罪でしか裁くことが出来ない状態」を意味する言葉です。

例えば法律には、通常の法律と特別法というものがあり、その両方に罰則が定められていますが、こうした状況では「特別法が優先される」のがルールとなります。

仮にある人間が犬を虐待した場合、通常の法律では器物損壊の罪が適応されるのですが、特別法として動物愛護法というものが存在していますから、このケースでは動物愛護法のみで加害者が裁かれることになるという訳です。

また、未遂罪が定められている罪では、実際に犯罪を起こすと同時に、未遂罪も成立してしまう可能性がありますが、こうした場合も一つの罪にしか問われないことになります。(例・恐喝を行おうとしただけでも罪になるが、恐喝が完了していれば「未遂の罪」は考慮されない)

更には、条文上では二つの罪に該当しそうな場合でも、法律の解釈上『同時に成立することはない』と判断されている犯罪が存在しており、こうしたパターンにおいても併合罪は適応されないことになるでしょう。

 

観念的競合

続いてご紹介するのが、一つのアクションが複数の犯罪に該当してしまうケースとなります。

冒頭でもご紹介した、石を投げてガラスを割ったら、建物の中に居た人に怪我を負わせてしまったという状況では、「石を投げる」という一つのアクションしか行っていませんから、この場合は併合罪とは扱われません。

このパターンでは、結果として発生した罪の内、重い方の犯罪で加害者が裁かれることとなります。

 

牽連犯(けんれんはん)

前項でご紹介した観念的競合と非常に良く似ているのが牽連犯です。

違いは、観念的競合が一つのアクションであったのに対して、牽連犯は一つの目的に向かって複数のアクションを起こしている点となります。

例えば空き巣に入ろうとした犯人が、建物の敷地に侵入し(住居侵入)、ガラスを割り(器物損壊)、お金を盗む(窃盗)という犯罪を行ったとしましょう。

この場合には、様々なアクションを起こしていますから観念的競合は成立しませんが、「お金を盗む」という目的は一つなので、牽連犯が適応されることになります。

こちらのケースでも併合罪とはならず、最も罪の重い「窃盗」にて、犯人は裁かれることとなるのです。

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併合罪について

前項までの解説にて、「複数の罪を犯していても、必ず併合罪が適応されるものではない」ことがご理解頂けたことと思います。

では、どんな場合に併合罪が成立するのでしょうか。

併合罪が成立するには、「複数のアクション」が「別の目的」で行われていることが要件となります。

連続傷害事件などは非常に判りやすい例であり、別々の人間を別の目的で攻撃している訳ですから、これは完全なる併合罪の適応対象です。

また、仮に同じ場所、同じ時間に二人の人間を傷付けたとしても、それぞれの人間を違う目的で、一人一人攻撃した訳ですから、こちらも同じく併合罪と判断されます。

但し、1人の人間を攻撃しようとして、ワンスイングで勢い余って二人を傷付けてしまった場合には、観念的競合が成立して一つの罪で裁かれることとなるのです。

以上の解説にて併合罪の概要はご理解頂けたことと思いますが、実際の運用面では更に細かなルールがありますので、以下に詳細をまとめてみましょう。

 

併合罪適応のルール

では以下に、併合罪の運用上のルールをまとめて行きます。

 

併合罪での最高刑期

併合罪が適応される場合、犯した罪の重い方の1.5倍が刑期の上限となります。

懲役10年が上限の犯罪と、懲役5年の犯罪を行った場合には、懲役10年×1.5=懲役15年が最高刑期となる訳です。

但し、上限は30年と定められていますから、計算上懲役35年となっても、30年がMAXとなります。

 

適応されるのは懲役刑と禁固刑のみ

判決が死刑や無期懲役の場合には、併合罪は適応されません。

また、犯した罪が罰金刑のみの場合には、それぞれの罪の罰金上限の合算が最高刑となります。

例えば罰金100万円と罰金50万円の犯罪を同時に起こせば、100万円+50万円=罰金150万円が刑の上限となるのです。

 

併合罪の遮断

この様に複数の犯罪をまとめて裁く併合罪ですが、「一体どこまで遡って罪をまとめるか?」という疑問も出て来ることでしょう。

これに対して法律は、「一つの事件に対して確定判決が下るまで」という線引きを行っています。

つまり、ある事件で確定判決が下り、それ以前に2つの犯罪で起訴されていれば、合計3つの罪で裁かれるという訳です。

但し、判決前に起こした事件の内、一件が起訴されておらず、判決後に起訴されたならば、その事件は「別の事件」として扱われ、別途判決が下されることになります。

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併合罪まとめ

さてここまで、併合罪について解説して参りました。

日本の併合罪を見てみると、その上限は30年となりますから、アメリカなどの懲役数百年なんて判決と比べると、少々手緩い印象を受けるかもしれませんが、

我が国の法律には無期懲役や死刑も用意されていますから、決して「甘過ぎる」なんてことはないはずです。

また、観念的競合・牽連犯という概念を取り込むことにより、無駄に重い罪を課することのない、非常に良く出来た司法システムとなっている様に思えます。

犯罪には、手を染めないことはもちろん、巻き込まれることも避けたいところですが、いざという時のために、しっかりと知識を身に付けておきたいところです。

ではこれにて、「併合罪とは?という疑問にお答え致します!」の記事を締め括らせて頂きたいと思います。

 

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