落し物を拾った

 

街を歩いている際に時折遭遇するのが、「落し物」となります。

道端に転がっている硬貨に、置き忘れらたスマホに傘、そして時にはクレジットカードや運転免許証など非常に重要な物が放置されていることもあるでしょう。

もちろん、こうした落し物を見付けた際には、交番などに届けるのが「正しい行動」であることは皆様もご存知でしょうが、

よくよく考えてみると「落とし主が現れたら、本当に1割貰えるのだろうか?」「落し物を自分のものとしてしまった場合にはどんな罰を受けることになる?」なんてことはあまり知られていませんよね。

そこで本日は「落し物を拾った際の法律問答をお届け!」と題して、拾得物にまつわる法律知識をご紹介してみたいと思います。

スポンサーリンク

 

遺失物法の概要

冒頭でも少々触れましたが、落し物と言えば「一定期間、落とし主が現れなければ拾った者のものになる」「落とし主が見付かれば、1割の謝礼が貰える」なんて知識をお持ちの方も多いことと思いますが、こうしたルールの根拠となっているのが「遺失物法」という法律となります。

そしてこの法律では、先に述べた以外にも落し物に関する様々な事柄を定めておりますので、まずはこの遺失物法の概要から見て行くことに致しましょう。

実はこの遺失物法、施行されたのは明治32年という非常に古い法律である上、実質的に改正されたのは昭和33年が最後という非常に時代遅れな法律でした。

そこで平成19年に大規模な改正が行われることとなり、この時点で以前の法律とはかなり内容が変更されています。

例えば、落し物の持ち主が現れない場合、改正前は6ケ月でその所有権が拾い主(拾得者)に移されることとなっていましたが、改正後は3ケ月で済むようになりました。

但し、クレジットカードやスマホなど個人情報が組み込まれた物品は対象外となっていますので注意が必要です。

また例外として、自転車など価値が低いにも係わらず、保管にコストが掛かる物品については、警察署等の預かり機関に限り、2週間での売却処分が許されることとなりましたし、犬や猫など動物愛護法に規定される生き物についは遺失物法の対象外として扱われる(拾われた段階で落し物とは扱わない)ことになりました。

因みに改正前には、落し物を預かることが可能だったのは警察署のみとなっていましたが、改正後は商業施設等の中で警察署長への届け出を行った施設(特例施設占有者)については、10万円以下の物品に限り落し物の預かりや、3ケ月経過後の売却処分が許可されることになったのです。

この様に改正の内容を見ていくと、落し物の処理に関する手続きの簡素化ばかりが目立つ様に感じますが、実は「落し物が落とし主の下に戻りやすくするための努力」も怠ってはいません。

ご存知の方もおられるとは思いますが、現在では都道府県ごとにネットでの落し物検索が可能になっていますし、重要な物品に関しては全国を対象に情報公開が行われていますが、実はこれも平成19年度改正による恩恵となっているのです。

さて続きましては、落とし主が現れた際の1割の分け前や、落し物を届け出なかった場合について解説を行って行こうと思いますが、少々ボリューミーなお話しとなりそうですので、以下に個別のご説明を加えて参ります。

スポンサーリンク

 

落し物と報労金

落し物を警察へ届け、落とし主が現れた際には、その1割をもらうことが出来るというお話は、遺失物法28条の規定によるものです。

但し、実際に条文を見てみると「落とし主は拾い主に対して、100/5(5%)以上100/20(20%)以下に相当する額の報労金を支払う」となっていますから、1割というのは厳密ではありません。

また報労金という名称からも判る通り、これはお礼ということになりますから、条文に書いてあるからといって必ず上限の20%が貰える訳でもないのです。

よって実際には、期待していた金額よりも低い報労金しか貰うことが出来ず、訴訟に発展するケースも珍しくはないと言いますから、何とも世知辛い気がして来ます。

因みに裁判となった場合には、「拾い主が落し物を届け出るのにどれだけの労力を要したか」「届け出たことによって、落とし主がどれだけの利益を得ることが出来たか」といった点が争われることとなり、5%~20%の間で割合が決定(判決として)されることになるでしょう。

ただ注意が必要なのは、現金であればともかく、落し物が預金通帳や有価証券の場合では、その額面が丸々評価対象とされることは稀であり、

残高100万円の通帳を拾っても裁判所がその価値を半額しか認めなければ、割合としては20%の判決が下っても10万円(50万円×20%=10万円)しか貰えないということも多い様です。

※通帳などの場合は悪用されたとしても、現金化出来る可能性が低いため、残高全額の価値を認めるべきではないという判断であると考えられます。

なお、落し物を拾った者は1週間以内に警察等へ届け出なければ、報労金が貰える権利を失うことになりますし、落とし主が現れた際も1ケ月以内に報労金の請求を行わなければならないのがルールです。

遺失物横領罪について

続いて解説させて頂くのは、落し物を警察等に届けずに、自らのものとしてしまう行為についてとなります。

落し物見付けたら、警察に届けなければならないことは小学生でも知っていることですが、世間には大人であるにも係わらず、自らの懐に入れてしまう方も多い様です。

そしてこうした行いをした場合には、遺失物法ではなく刑法254条により、遺失物等横領罪(1年以下の懲役または10万円以下の罰金若しくは科料)が適用されることになるでしょう。

但し注意が必要なのは、落し物を拾った場所によっては更に重い罪に問われる可能性もあるという点です。

例えばタクシー車内や電車の中でお財布を拾い、これを我が物とした場合には、遺失物等横領罪ではなく窃盗罪(10年以下の懲役又は50万円以下の罰金)が成立する可能性もあります。

この違いは、落し物を拾った場所を管理する者(タクシー会社や鉄道会社)が存在するか否かによって生じるものであり、公道であれば単なる落し物の着服と見なされる罪が、管理者からの窃盗と判断されてしまうという訳です。

因みに遺失物横領罪は親告罪となりますから、落とし主が告訴をしなければ犯人が裁かれることはありません。

また仮に告訴を行ったとしても、簡単にはそれが認められないケースもある様です。

こんなお話をすると「そんなの警察の怠慢だ!」と思われるかもしれませんが、ここには少々厄介な問題が存在しています。

例えば犯人が「後で警察に届けるつもりだった・・・」なんて言い訳をした場合には、『そんなの嘘だ!』とも言えない訳です。

なお、遺失物横領罪には「何日以内に警察に届けなければならない」なんて規定は存在せず、「警察に届ける意思がない場合に成立する」とされていますから、落し物を処分した場合(売却した、お金を使った)や、10日以上保有し続けた場合などには罪に問われることになるでしょう。

スポンサーリンク

 

落し物を拾った際の法律問答まとめ

さてここまで、落し物に関する法律知識をお届けして参りました。

誰も見ていない場所で、大金の入ったお財布などを拾った場合には、耳元で悪魔が囁くことがあるかもしれませんが、これは立派な犯罪となりますし、落とし主の心情を考えれば一刻も早く警察に届け出るのが人の道というものでしょう。

また、思っていた金額よりも低い報労金しか貰えない場合には、思わずイラッと来るかもしれませんが、報労金はあくまでお礼の気持ちであることを理解し、訴訟などを起こさない心もゆとりも持っておきたいところです。

ではこれにて、「落し物を拾った際の法律問答をお届け!」の記事を締め括らせて頂きたいと思います。

 

スポンサーリンク