親告罪とは

 

私たちを犯罪から守ってくれる機関と言えば「警察」ですよね。

近年では警察の不祥事なども度々報告されていますが、こうした事件がセンセーショナルに報じられるのも、私たち日本人が根強く持つ「警察に対する厚い信頼」の裏返しであるように思えます。

また、日本の警察は他国のそれと比べても、非常に優秀であることは広く知られていますし、多くの警察官が文字通り身体を張って治安を守ってくれていることは、改めてご説明する必要もありませんが、

実はそんな我が国の警察をもってしても「犯罪が発生したのは明らかなのに、犯人を逮捕することが出来ない場合がある」のをご存じでしたでしょうか。

そこで本日は「親告罪とは?わかりやすく解説致します!」と題して、犯罪であるにも係わらず警察も対処することの出来ない親告罪について解説して行きたいと思います。

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親告罪って何ですか?

「親告罪という言葉を始めて耳にした」という方は意外に少ないかもしれませんが、「その概要を詳しく知っている」という方もそれ程多くはないはずです。

親告罪とは、日本の法律に定められた犯罪類型の一つを指す言葉で、簡単に言えば「被害者等の申立てがなければ、罪に問うことが出来ない犯罪」ということになります。

なお、この場合の申立てとは、被害届等の提出ではなく『告訴が必要であると』とされていますから、極端な例を挙げれば「警官の目の前で犯罪が行われているのに、被害者が黙っていれば手が出せない」という状況も有り得る訳です。(もちろん、通常は警官が止めに入りますが)

この様なお話をすると「どうしてそんな法律が存在するの?」と疑問に思われるかもしれませんが、一言で犯罪といっても様々なパターンがあり、

親族がお金を盗んだ場合や性犯罪などでは、家族間での話し合いを優先すべきであったり、被害者の感情を考えて公にすべきでないパターンもありますよね。

そして、こうした「特殊な配慮が必要となる可能性」を考慮して作られたのが親告罪であるという訳なのです。

親告罪の概要

では続いて、更に詳しく親告罪の概要について解説を加えて参りましょう。

告訴がされない場合

通常の犯罪であれば、犯人は警察に逮捕され、その後検察に送致された上で、検察官から公訴を受けて裁判に臨むのが通常の流れとなります。(逮捕後の流れについては別記事「逮捕されたらどうなる?気になるその後を解説!」をご参照下さい)

これに対して親告罪に該当する犯罪が行われた場合、例え警察が犯人を逮捕しても、被害者の告訴がなければ、検察官は犯人を公訴することが出来なくなってしまうのです。

では、告訴がない場合には「犯人は野放しにされるのか?」と言えば、通常は示談交渉や民事裁判が行われ、加害者がそれなりの賠償を行うのが通常でしょう。

何時まで告訴が出来る?

ここまでの解説で、親告罪となる犯罪については、被害者の告訴がなければ法の裁きを加害者に加えられないことはお判り頂けたことと思いますが、この告訴にも時間制限があります。

刑事訴訟法には「犯人を知った日から6ヶ月を経過した後は告訴出来ない」という規定がありますから、被害者はこの期間内に意思表示をしなければなりません。

但し、「犯人を知った日から」という前提がありますので、犯罪が誰の仕業であるのかが不明な時は、この期限に縛られることはないでしょう。

更には告訴に際して、「犯人はこの人だ!」という証拠は不要とされていますから、『証拠がないから告訴できない』なんて事態に陥る心配はありません。

複数犯の場合

では行われた犯罪の実行者が複数人であった場合は、どうなるのでしょうか。

刑事訴訟法はこうしたケースに対して「犯人の一人を告訴すれば、その共犯にもその効力が及ぶ」と規定していますから、複数犯全員を告訴する必要はありません。

告訴はどうやってすれば良い?

さて実際に告訴を行う場合には、何処に行って、何をすれば良いのでしょう。

告訴は検察官に対して直接行うことも可能ですが、警察もその窓口になってくれます。

また、口頭での告訴も可能ですが、書面による方が一般的ですから、弁護士などの法律家に相談の上で手続きを行うのがお勧めです。

犯人の住所が判らない

また、告訴することは決心したが、相手の連絡先や住所が判らないというケースもあるでしょう。

こうしたケースでも、相手方の名前さえ判っていれば告訴は可能となりますから、親告罪となる犯罪に巻き込まれた際には、相手の氏名だけは必ず確認しておくべきです。

告訴出来る人

ここまでのお話で、「告訴が出来るのは原則的に被害者」との解説を行って参りましたが、実は被害者本人以外にも親告罪の告訴が可能な者達が存在します。

まず挙げられるのが被害者の法定代理人となりますから、未成年者の両親(親権者)や、成年後見人や保佐人等がこれに当たるでしょう。

また、被害者が亡くなっている場合には、その妻や夫(配偶者)、並びに実の兄弟姉妹も告訴が可能ですが、遺言で「告訴しないこと!」なんて申し送りがある場合には、故人の遺志が尊重されることになります。

なお、加害者が法定代理人や配偶者、実の兄弟姉妹であったケースでは、親族でさえあれば誰でも告訴が可能です。

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親告罪とされる犯罪

では具体的に、どんな犯罪が親告罪として扱われるのでしょうか。

本項では個々の犯罪ごとに具体的な解説を加えて行きます。

なお、どんな状況で犯罪が行われても親告罪となるものを「絶対的親告罪」、状況次第で親告罪が適応されるものを「相対的親告罪」と呼んでいますので、こちらについても犯罪ごとにご説明致します。

侮辱罪及び名誉毀損罪

刑法では、他人の名誉を傷付ける事実(不倫をしている、脱税をしている等)を公表した者に対しては「名誉毀損罪(3年以下の懲役もしくは禁錮、または50万円以下の罰金)」を、

単純な『バカ!』『アホ!』などの暴言に対しては「侮辱罪(拘留または科料)」が適応されることになっていますが、この二つの罪は絶対的親告罪となりますから、被害者からの告訴がない限りは罪に問われることはありません。

なお、侮辱罪や名誉毀損罪は口喧嘩などを切っ掛けに、容易に成立してしまうこともありますから、是非ご注意頂ければと思います。(これらの罪に関する詳細は「口論に関する法律問答をお届け!」をご参照下さい)

信書開封罪・信書隠匿罪・文書等毀棄罪・秘密漏示罪

続いてご紹介するのが他人のプライバシーに係る罪についてとなります。

刑法では、勝手に人の手紙等を開封する「信書開封罪(1年以下の懲役または20万円以下の罰金)」、人の手紙を隠してしまう「信書隠匿罪(6月以下の懲役もしくは禁錮または10万円以下の罰金)」

手紙を破棄してしまう「私用文書等毀棄罪(5年以下の懲役)」、そして手紙の内容を公表する「秘密漏示罪(6月以下の懲役または10万円以下の罰金)」などを規定していますが、これらの犯罪は絶対的親告罪として扱われることになります。

よって被害者からの告訴なくして、これらの罪に問われることはありませんが、夫婦や恋人間でこうした行為を日常的に行っており、関係が悪化した際に告訴されてしまうケースも多いといいますから、是非ご注意下さい。

過失致死傷罪

傷付ける意思は全くないのに、相手に怪我を負わせてしまった際に適応されるのが「過失致死傷罪(30万円以下の罰金又は科料)」であり、こちらも絶対的親告罪として扱われることになります。

なお、過失によって相手を傷付けた場合の罪は、他にも重過失致死傷罪や業務上過失致死傷罪がありますが、親告罪となるのは過失致死傷罪のみです。

因みにどんな行為が過失致死傷罪に当たるかについては、過去記事「過失傷害に関する法律問答をお届け!」をご参照下さい。

器物損壊罪

他人の所有物や建物を破壊したり、傷付けた場合に適応されるのが、こちらの「器物損壊罪(3年以下の懲役又は30万円以下の罰金)」となります。

人の持ち物を壊すというのは、言語道断な行為にも思えますが、刑法上ではそれ程重い罪とは考えられておらず、絶対的親告罪とされているのです。

なお自動車を運転しており、飛び出して来た飼い犬を轢いてしまった場合には、この器物損壊罪が適応されることになります。

強姦罪(強制性交等罪)・強制わいせつ罪

ここまでお話して来た犯罪とは深刻さが大きく異なるのが、こちらの性犯罪に係る事項となります。

実は平成29年の法改正によって、現在では親告罪ではなくなっているのですが、それ以前は告訴があった場合のみに裁かれる犯罪でした。

これらの憎むべき犯罪が親告罪として扱われていたことは、非常に納得し辛いものがありますが、事件が公になった際の被害者感情を考えれば、親告罪(絶対的親告罪)にせざるを得なかったのが実情でしょう。

但し、加害者が刑事罰を受けないことによって、結果的に性犯罪者を野放しにしているとの指摘もあり、法改正が行われることとなりました。

略取・誘拐罪

さてここからは絶対的親告罪ではなく、犯罪が行われた状況によって扱いが変わって来る相対的親告罪のお話となります。

略取・誘拐とは、脅迫や暴力、誘惑などの手段を用いて相手を連れ去る行為を指す言葉となりますから、この犯罪がかなり重い罪に問われることは自明ですが、状況次第で親告罪と扱われてしまうのです。

例えばわいせつ目的や、結婚が目的の連れ去りであれば、性犯罪同様、被害者的には「事を公にしたくない場合」もありますよね。

また、被害者が未成年者だった場合も、将来のことを考えれば示談ですませた方が良いケースもあるはずです。

よって略取・誘拐罪については、身代金等の営利目的である場合を除いては、殆どが親告罪として扱われることになります。

親族における窃盗罪・不動産侵奪罪・詐欺罪・恐喝罪・横領罪

窃盗や詐欺、恐喝と聞けば、これが重大な犯罪であることは誰でも判るはずですが、その犯人が親族であった場合には、少々微妙な空気が漂い始めます。

例えば、仲の良い兄弟の息子(甥)が自宅からお金を盗んだ場合には、兄弟間の話し合いで事件にケリを付けた方が良い場合だってあるはずです。

そこで刑法は、こうした親族間で行われた窃盗罪・不動産侵奪罪・詐欺罪・恐喝罪・横領罪について、親告罪とするとの判断を示しています。

因みに子供が親のお金を盗んだり、一つ屋根の下に暮らす家族間でこうした事件が起こった場合には、そもそも罰せられることさえありません(刑法244条親族相盗)ので、親告罪となるのは親戚同士などケースのみです。

※親族相盗の詳細については過去記事「親の金を盗む子供、親を殴る子供の法律問答!」をご参照下さい。

著作権違反

書籍や映像作品などの内容について、適切な利用承諾を受けずにその権利を侵害すれば、それは著作権違反の罪に問われることになるでしょう。

但し、一部の特殊な事例を除いては、著作権を持つ者(被害者)が告訴を行わねば、加害者を罰することが出来ないのがルールですから、優秀なパロディー等の場合には著作権者が黙認するなんてケースも少なくありません。

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親告罪まとめ

さてここまで、親告罪について解説を行って参りました。

犯罪を行った者は、自動的に逮捕・起訴(告訴)されると思っておられた方も多いと思いますが、実は「そうではないケース」も多数あることをご理解頂けたことと思います。

万が一、自分がこうした犯罪に巻き込まれた際に備えて、正しい知識と対応方法を覚えておいて損はないはずです。

ではこれにて、「親告罪とは?わかりやすく解説致します!」の記事を締め括らせて頂きたいと思います。

 

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