老若男女を問わず、生きていれば必ず争い事に遭遇するものです。
幼稚園児でさえも「オモチャを勝手に使った、使わない」等の理由で言い争いになることはあるでしょうし、これが大人ともなれば、恋愛感情のもつれから生じる恋人同士や夫婦間の口論に始まり、
職場の仲間との口喧嘩、そして電車の中で起こる「足を踏んだ、踏まない」の揉め事など、様々なシーンでバトルが繰り広げられることとなります。
もちろん感情的になり過ぎて、相手を殴ってしまったりすれば、これは大きな問題に発展することとなるでしょうが、場合によっては例え暴力を振わなくとも告訴されたり、損害賠償を請求されたりするケースもあるのです。
そこで本日は「口論に関する法律問答をお届け!」と題して、口喧嘩などが引き起こす法律問題を解説して行きたいと思います。
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口論が原因で訴えられる可能性がある罪
「口論で罪に問われることがあるの?」と驚かれた方も多いかもしれませんが、日本の刑法の中には例え手を出していなくとも、しっかりと罰を与える条文が多数存在しています。
そこでまずは、吐きだした言葉によって罪に問われる可能性がある刑法上の問題について考えて行きましょう。
脅迫罪
誰かと口論となった際に、ついつい口から飛び出してしまうのが「ぶっ飛ばすぞ!」などの、相手を威嚇する言葉です。
もちろん普段は仲が良い相手に対して、売り言葉に買い言葉でこうした言葉を発してしまう分には、事件化することはないでしょうが、場合によっては刑事事件に発展する可能性だってあります。
脅迫罪は刑法222条に規定される犯罪であり、相手またはその家族の「生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知」をした際に成立します。
また脅迫罪が成立した場合の罰則は「2年以下の懲役又は30万円以下の罰金」と定められていますから、なかなかに重い罪であることがご理解頂けるでしょう。
ただ「生命・身体」については、『殴るぞ!』など、問題となる言葉が想像しやすいのですが、「自由・名誉・財産」についてはあまりイメージが湧かないですよね。
簡単に例を挙げるとすれば、「自由」の場合は『さらうぞ!』などの言葉となり、「名誉」なら『お前がしたことを言いふらしてやる!』なんてフレーズ、そして「財産」なら『車をぶっ壊してやる』等の発言がこれに当たります。
なお、脅迫罪は相手の親族に対して成立しますから、「お前の親を襲うぞ!(親の身体)」や「嫁さんの秘密を世間にバラすぞ!(配偶者の名誉)」など台詞も脅迫にあたる可能性があるのです。
しかしながら、親族ではない者(親友・恋人)については、適応範囲外となります。
但しこの脅迫罪、手紙やメールであればともかく、口喧嘩の場などでは証拠が残り辛いため、事件化するのはなかなか難しいと思われます。
因みに脅迫罪は口頭や手紙以外でも、「ナイフをチラ付かせる」といった行動でも適応されますので、動画などを撮影しておくと良い証拠となるはずです。
強要罪
続いてご紹介するのが、強要罪という犯罪です。
刑法223条に定められているこの罪ですが、基本的には先程ご紹介した「脅迫罪」に非常に良く似た犯罪となります。
ただ脅迫と異なるのは、「脅迫を行った上で、相手に義務のないことをさせた場合」に成立するという点です。
「義務のないことって何だろう?」とお思いになられるかもしれませんが、揉めた相手に『謝罪しろ!』、『反省文を書け!』などがこれに当たる可能性があります。
近年、コンビニエンスストアの店員に土下座をさせた動画を撮影した事件が問題となっていましたが、犯人はこの強要罪で逮捕されているのです。
なお、この罪での罰則は「3年以下の懲役」と定められており、相手が言うことを聞かなかった場合でも「強要未遂」として罰せられます。
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恐喝罪
そして強要罪が更にエスカレートしたものが、恐喝罪となります。
恐喝罪は、脅迫を用いて相手に要求するものが「行為(強要罪)」から、『金銭その他の財物』に変わった時に成立します。
「許して欲しいなら、金を払え」、「不倫していることを黙っていて欲しかったら、金を振り込め」といった発言は恐喝罪に問われる可能性が高く、違反した場合には「十年以下の懲役」という重い罪が課せられるのです。
また、例え相手が金品の支払を拒んだ場合にも、恐喝未遂の罪が成立します。
因みに言葉で相手を脅迫して金品を請求するのならば恐喝罪ですが、刃物を見せたり、相手を縛ったりすれば強盗罪が成立する可能性も出て来るでしょう。
なお、一時期ヤンキーなどが行っていた「カツアゲ」は、立派に恐喝罪や強盗罪に問われる行為です。
名誉棄損罪
さてここからは、同じ口論が原因で起こるトラブルでも、脅迫系のものとは少々毛色が変わって来ます。
言い争いをしていると「君が言っていることは名誉棄損だ!」なんて言葉をよく耳に致しますので、この犯罪についてご説明致しましょう。
名誉毀損罪は刑法230条に定められた犯罪であり、「他人の名誉を、公然と事実を示して棄損した場合」に成立し、違反した場合には3年以下の懲役もしくは禁錮、または50万円以下の罰金に処せられます。
但しこの名誉棄損、成立には少々厄介なハードルが存在。
まず挙げられるのは、「公然」と名誉が棄損されなければならず、「相手と二人っきりで口論していた場合」や、「周りに友人が居ただけ」の状況では成立しません。
また、例え相手が放った言葉が本当のことであれ、嘘であれ、「事実を示している」ことが要件となります。
「本当でも、嘘でも事実」というと頭が混乱してしまいそうですが、ここで言う事実は「お前は不倫をしている」、「お前は会社の金を使い込んでいる」といった『一定の情報』という意味であり、その情報が本当なのか、嘘なのかは問題とならないのです。
こんなお話をすると、「週刊誌などの記事が名誉棄損と言われても、それが事実ならセーフってことがあるじゃない」とお思いになるかもしれませんが、これは230条2項にある「行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない」という条文によるものとなります。
この230条2項が言っているのは「名誉を汚された対象が政治家やタレントであり、その情報が事実であることに加え、公の利益に係る内容ならば、それは罰しない」ということです。
そして逆を返せば、相手が一般人の場合には例え言った内容が「事実であろうが、なかろうが、罰せられる可能性がある」ということになります。
なお、相手に「アホ!」、「バカ野郎!」なんて言われた場合には、「事実が示されていない」という理由で名誉棄損は成立しません。
但し、次項でご紹介する「侮辱罪」は成立する可能性があるでしょう。
侮辱罪
そして名誉棄損罪と並んで、口論に問題となりやすいのが侮辱罪となります。
既に申し上げた通り、「バカ野郎!」など単に人を罵倒するような行為に対して成立する犯罪となります。
刑法231条に定められたこの罪を犯した場合には、拘留または科料に処せられることとなりますが、罪としては非常に軽いものとなるのが特徴です。
また名誉棄損罪と同じく「公然と」侮辱される必要がありますから、1対1や、少人数の揉め事で、この罪に問うのは難しいでしょう。
民法上の問題
ここまで口喧嘩などに際して、問われる可能性のある犯罪についてお話して来ましたが、これらに該当する事実があった場合には、民事訴訟でも損害賠償が請求出来る可能性があります。
刑事事件の場合、これらの罪について告訴したとしても、起訴されない可能性も高いのですが、民事訴訟ならば勝訴を勝ち取れる可能性も充分にあるでしょう。
但し、訴訟となれば弁護士費用の負担も発生しますし、それなりの時間も掛かりますから、請求する賠償金の額によっては示談で済ませる方が無難というケースもあるはずです。
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口論の法律問題まとめ
さてここまで、口論や口喧嘩で起こり得る法律問題を解説して参りました。
頭に血が上った際には、自分でも信じられない様な暴言を吐いてしまうこともあるでしょうが、場合によっては「罪に問われる可能性がある」ことを憶えておいて頂ければ幸いです。
なお名誉棄損罪と侮辱罪については、親告罪と呼ばれる「被害者から訴え出なければ、相手が罪に問われない犯罪」となりますが、脅迫罪や強要罪等は親告罪ではありませんので、公の場で行った場合には警察に逮捕される可能性もあります。
昔から「口は災いの元」とも言いますから、自分の発言にはくれぐれも注意したいところですよね。
ではこれにて、「口論に関する法律問答をお届け!」の記事を締め括らせて頂きたいと思います。
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