中絶に関する法律

 

「愛し合う男女が結ばれ、新たな命を授かる」、これは人間の歴史が始まる前から営々と続けられて来た命の営みです。

しかしながら文明が進み、社会が複雑になっている昨今では「折角授かった命を、親が自ら断つ」という悲しい行為も数多く見受けられます。

もちろん「生みたい気持ちは山々だけど、状況がどうしてもそれを許さない」という方も数多くいらっしゃいますが、中には「親の我がまま」のみで新しい命を絶ってしまう方もおられるようです。

そして軽々しい気持ちで中絶に踏み切る方々の中には、「中絶は法律でも認められている行為なのだから、何の問題があるの?」と考えている者もおられるようですので、

本日は「中絶に関する法律知識をお届け!」と題して、この命の問題を法律的に考えてみたいと思います。

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堕胎罪について

中絶に関する法律を解説する上で、避けて通れないのが「堕胎罪」という法律です。

「あまり耳にしたことが無い!」と思われる方も多いとは思いますが、刑法212~216条にその規定は存在しています。

その名の通り堕胎罪は、母親の胎内において胎児の命を絶った上で、体外に取り出すことによって成立する犯罪です。

世間一般には、「妊娠後22週目(154日間)は中絶手術が可能」と言われていますから、この堕胎罪が成立するのも「この期間を超えた場合」と思われがちですが、これは大きな間違い。

堕胎罪は「着床、懐胎した胎児」に適応されることになりますから、例え妊娠一ヶ月目でも充分に成立するのです。

また中絶に反対する市民団体などは、「人工中絶は殺人だ」などと叫ぶことがありますが、法律的には母親の体内から出て来た時に、初めて「人」として扱うルールとなっていますから、中絶に関しては殺人罪ではなく堕胎罪が適応されることになります。

さて、この堕胎罪ですが、実は犯行が行われるシュチェーションによって、課せられる罰が大きく変わることでも有名です。

そこで以下では、いくつかのパターンに分けて解説を加えていくことにしましょう。

 

母親本人が自力で堕胎する場合

現在では少々考え辛いシュチエーションですが、この状況では自己堕胎罪が成立する可能性があります。

自己堕胎罪については1年以下の懲役という規定がなされています。

 

他人に堕胎を依頼する場合

母親に依頼された他人が堕胎を行った場合には、「合意の上で」ということになりますから同意堕胎罪が成立します。

罰則としては2年以下の懲役となりますが、これが合意も無いのに堕胎させたということになれば、不同意堕胎罪となり罰則は6か月以上7年以下の懲役に跳ね上がるのです。

 

医師などの堕胎を依頼する場合

そして最後にご紹介するのが、医療関係者に堕胎を依頼するケースです。

この場合ですと業務上堕胎罪ということになり、これを行った者は3か月以上5年以下の懲役となります。

なお前項と同様、母親の合意がない場合には6か月以上7年以下の懲役に処せられることになるでしょう。

 

ここまで堕胎罪の概要をご説明して参りましたが、「何か違和感」を覚えた方もおられるのではないでしょうか。

そうです、実はこの堕胎罪、例え処置をするのが医師でも犯罪として成立するルールになっているのです。

「では一体どうやって、世の女性は中絶手術を受けているのか?」という疑問の答えとなるのが次の項にて解説する「母体保護法」という法律となります。

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母体保護法について

こちらの母体保護法については、「聞いたことがある」という方も多いかもしれません。

実はこの法律、昭和23年施行という非常に古い法律(当時は優生保護法という名称)であり、その内容は中絶手術などに関するものが主となっています。

「どうしてそんな時代に中絶に関する法律が?」とお思いになられるかもしれませんが、当時は第二次世界大戦が終結したばかりの時代。

敗戦国である日本は、終戦を迎えたとはいってもまだまだ混乱が続いており、暴力的な手段で望まぬ妊娠をする女性も少なくありませんでした。

こうした女性たちを救済するべく作られた本法律は、前項でお話した堕胎罪について、一定のルールを守ることにより「罰しない」と規定したのです。

そして時は流れ、高度経済成長時代を迎える頃になると、母体保護法も時代に即したものへと改正されることとになり、現在運用されている内容に変わって行きました。

但し、母体保護法では現在でも中絶に対して一定の許可基準を設けており、堕胎が許される条件は「医師会の指定医師が手術を行うこと」、そして「本人と配偶者の同意があること(配偶者が判らない時は本人のみ)」という2点に加え、下記のどちらかの事情が必要であるとしています。

  • 妊娠の継続が、身体的または経済的に母親の健康を害させると医師が判断した場合
  • 暴力などの手段で無理やり妊娠させられた場合

つまり、暴力的な方法以外で妊娠をした場合に中絶が行えるのは、「子供が居ては経済的に生活が出来ない場合」と「母親に重大な健康被害が予想される場合」のみということになるのです。

但し現実には、中絶手術を行おうと病院を訪れば、医師が「許可しない」という言うことは殆どないのが実情ですから、中絶という道を選ぶ多くの方が「厳密に言えば法令違反状態にある」ということだけは、認識しておくべきでしょう。

なお母体保護法の規定では、中絶が可能な時期を「胎児が母体外において、生命を保続することのできない時期に限る」としており、条文に明確な記載は無いものの、この時期を妊娠22週未満と解釈しています。

よって、妊娠22週目以降の中絶手術は医師が行った場合でも堕胎罪が成立することになるのです。

ネットの掲示板などを見ていると、「22週目以降でも手術してくれる病院はありませんか?」なんて質問も見掛けますが、そんな病院は存在しないと断言出来るでしょう。

因みに母体保護法の話からは少々逸れますが、22週目未満の中絶手術であっても、時期によって処置後の手続きに違いが出て来ます。

妊娠12週目以降に行われる中絶手術は「中期中絶」と呼ばれるものとなり、この中期中絶が行われた胎児は戸籍法上、死産と扱われることとなりますから、市区町村などに7日以内に死産届を提出しなければなりません。

また取り出された胎児は、火葬した上で埋葬しなければならないことになっていますし、これに違反すると罰則もありますから、ご注意頂ければと思います。

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中絶まとめ

さてここまで、中絶を取り巻く法律について解説を行って参りました。

手術を受ける方の中には、「中絶は当たり前に与えられた権利である」と勘違いしている者も多い様ですが、本来は堕胎罪という犯罪であり、特別な場合だけ許される行為であることを是非ご理解下さい。

また世間には「子供が欲しくても授からない方々」や、「折角望まれて授かったのに、無事に誕生出来なかった数えきれない命がある」ことを、この機会に知って頂ければ幸いです。

ではこれにて、「中絶に関する法律知識をお届け!」の記事を締め括らせて頂きます。

 

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