破産手続きの流れ

 

私たちの日常生活においても、予期せぬ出費が続いた際などには「破産してしまう!」なんて表現をよく使うものです。

こうした意味では、「破産」という言葉は非常に身近なものとなっていますが、実際に破産の手続きを経験したことがあるという方はそれ程はおられないでしょうし、破産することで何が起こるかについても詳しくご存じの方は意外に少ないことと思います。

また、こうしたお話をしても「破産なんて自分には関係ない!」と思われる方も多いでしょうが、奨学金や住宅ローンなど借入れを起こすことは誰にでもあることですし、大手企業が突然倒産することもある世の中ですから、いざという時のために知識を身に付けておいて損はないはずです。

そこで本日は「破産手続きの流れを解説致します!」と題して、個人が行う破産手続きの流れや、その周辺知識をご紹介して行きたいと思います。

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破産とは

通常、破産といえば「お金が全くない状態」を指す言葉となりますが、法律上の「破産」となるとその意味は少々異なるものとなって来ます。

法律上の破産とは、借金等(債務)が返せない状態となった際に、裁判所の判決によって残された財産の整理(破産手続き)と、未返済の借金を免除(免責手続き)してもらうことを指す言葉です。

近年では、自己破産という言葉がかなり知られる様になっていますが、これは借金が膨らんだ当事者が自ら破産手続きを行うという意味であり、その他にも準自己破産や債権者破産など、破産にはいくつかの種類が存在しています。

なお今回は、この自己破産についてのみ詳しく解説を加えていくことに致しましょう。

 

破産すると何が起こる

前項でもお話した通り、破産は「破産手続き」と「免責手続き」の二本立てで行われるのが原則です。

そして破産手続きは、財産の整理ということになりますから、所有する財産(自宅や自動車等)を全て処分し、お金を借りている人々(債権者)に配当という形で分配を行うことになります。

これに対して免責手続きは、財産を全て処分しても相殺しきれなかった借金を、裁判所の判断により帳消しにしてしまう行為です。

よって簡単にご説明するならば、破産となった者は全ての財産を投げ打つのと引き換えに、残った借金も全てチャラにしてもらうことが可能となります。

但し、いくら破産者とは言っても、裸一貫で放り出す訳にはいきませんから、生活に必要な物品や99万円までの現金は手元に残すことが出来るのです。

また例え破産したとしても、それを原因に仕事をクビになったり、社会生活を営む上で極端に支障が出るようなことはまずありません。

しかしながら、破産した事実は官報と呼ばれる政府発行の冊子に掲載されることとなります、金融機関が共有する信用情報上ではブラックリスト扱いとなりますから、その後数年から10年程は借金などが出来なくなります。

また、警備員や金融関係仕事、税理士などの士業では、独自に法律で破産者が職に就くことを禁じている場合がありますので、こうした仕事をしている者は、職を失う可能性があるのです。

 

必要書類

では、自己破産をしようと思い立ったらなら、一体どんな準備をすれば良いのでしょうか。

この項では、破産の申し立てに必要な必要書類について解説して行きたいと思います。

  • 破産申立書
  • 陳述書
  • 債権者一覧
  • 資産目録
  • 家計状況表
  • その他の添付書類

 

破産申立書

破産申立書の書式は、申立てを行う裁判所にて誰でも簡単に入手することが出来ます。

但し、書式については全国共通ではなく、裁判所によって異なりますので注意が必要です。

また、申立書というと書くのが非常に面倒なものに感じるかもしれませんが、基本的には穴埋め的に文字を埋めていくタイプの書式となりますので、作成にはそれ程労力を要することはないでしょう。

 

陳述書

裁判所に破産を認めてもらうには、「破産するしかない明確な理由」が必要となります。

そして、その理由を裁判所に説明するのが、こちらの陳述書となる訳です。

こちらも書くのが大変そうに思えますが、裁判所は雛形を用意してくれていますから、それ程作成自体には苦労しないはず。

但し、陳述書の内容は裁判所の判断に大きな影響を及ぼすことになりますから、破産に至るまでの経緯や、現在の状況などを出来る限り詳細に書いて行く必要があります。

また、書式の最後には反省文を書く欄が用意されていますから、こらも出来る限り丁寧に文字を埋めて行きましょう。

 

債権者一覧

続いてご紹介するのが、借金の借入先の一覧となります。

どんな業者から、何時、どれくらいの金額を借りたのかを正確に記入する必要があるでしょう。

また、親族や友人など個人から借りたお金についても漏れなく書いて行きます。

なお、この一覧に漏れがあると、借金が免責されない可能性がありますので、充分に注意を払うべきです。

 

資産目録

こちらは自分が持っている資産の内容を示す書式となります。

この資産目録も非常に書きやすい書式となっていますが、大切なのはとにかく嘘を書かないことです。

記載漏れなどがあると、後々非常に厄介なことになりますから要注意となります。

また、この目録には車やバイクはもちろん、将来もらえる見込みの退職金や保険の返戻金なども記載することになるでしょう。

 

家計状況表

自身の家計の状況を明らかにする家計簿の様な書式となります。

書式1枚が1ヶ月分となっており、最低でも2ヶ月分、場合によっては更に長期間に渡ってこの家計簿を書き続ける必要があるでしょう。

なお、家計状況表を書く期間は裁判所によって異なります。

また配偶者がいる場合などは、その方の収入状況なども反映させる必要がありますから、こちらの書式の作成には少々手間が掛かるかもしれません。

 

その他の添付書類

そして最後にご紹介するのが、その他の添付書類となります。

代表的なものとしては、

  • 住民票・戸籍謄本
  • 給与明細・確定申告の控え
  • 通帳のコピー

などになるでしょう。

因みに、車を持っていれば車検証のコピー、マイホームを持っていれば登記簿謄本と言った具合に、添付書類は本人の立場や持ち物によって変わって来ますので、申立ての際には裁判所窓口などで細かな確認を行うのが得策かと思います。

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二つの破産手続き

さて、破産申し立ての書類の準備が出来たらなら、いよいよ実際の申立てを行うこととなります。

但し破産の手続きには、ここで大きな分かれ道が登場。

それは「同時廃止」と「管財事件」という二つの選択肢であり、先に説明した破産手続きを瞬間的に完了してから、免責手続きを行うのが「同時廃止」であり、破産手続きと免責手続きを同時進行で進めて行くのが「管財事件」という分類になります。

なお、この選択肢については、破産する本人が自由に選択出来るものではなく、裁判所がどちらの手続きを行うかの決定を行います。

詳しくは後述致しますが、原則として多くの資産が手元に残っていたり、免責不許可事由と呼ばれるギャンブルや浪費など、基本的には免責が許されない事情がある場合には「管財事件」となり、それ以外のケースでは「同時廃止」が選択されことになるでしょう。

 

同時廃止

この項の冒頭でも触れましたが、破産の手続きを開始と同時に終了させ、免責手続きのみを行うのが同時廃止となります。

同時廃止は、管財事件と比べて行うべきイベントが極端に少なくなりますから、手続きも迅速(半年程度)で、費用も安価で済むのが利点です。

但し、裁判所が同時廃止を選択するには一定の条件があり、手持ちの資産が非常に少ない場合(総資産30万円~20万円以下)であり、破産に至る理由に免責不許可事由が存在しない(ギャンブルや浪費が破産の原因ではないこと)が必要となります。

実際の手続きについては、破産申立書等を受理した裁判所が同時廃止を決定すると、破産手続きはアッと言う間に完了してしまいます。(但し、手続き開始前に審尋と呼ばれる裁判所による事情聴取が行われるケースもある)

ただ免責手続きはまだ済んでいませんから、その後に免責審尋と呼ばれる事情聴取を経て(省略される場合もあり)、免責の許可が下りれば、手続きは終了となります。

なお、裁判所の判断が下されても、債権者には異議の申立てが可能ですから、破産が効力を表すのはしばらく後のこととなるでしょう。(官報掲載後、2週間以内に債権者等へ送達され、到着が1週間は異議申し立てが可能)

 

管財事件

ここまで同時廃止のお話をして参りましたが、これが管財事件となると、手続きの様相はかなり異なるものとなって来ます。

まず破産の申立てが行われ、管財事件とする判断が下されたなら、破産管財人なる人物が裁判所より選任されることとなるでしょう。(この段階で破産手続きと免責手続きは同時進行で開始されます)

申立人が弁護士に破産手続きを依頼をしている場合には、その弁護士が管財人となることもありますが、裁判所によっては別の弁護士を管財人に指定して来ることがあり、この管財人の報酬も申立人が負担しなければなりません。

また手続き自体もかなり煩雑なものとなり、まずは管財人が申立人の資産状況などの調査を進めて行きます。

そして調査完了後は、管財人と申立人との間で打合せの機会が持たれた上で、債権者集会というイベントを裁判所にて開催することになるのです。

債権者集会では、残された資産の分配方法に関する説明や、免責に関する審尋が行われることとなりますが、通常は一回だけの開催となるでしょう。

債権者集会後は、いよいよ破産手続きと免責手続きが終了を迎えることとなりますが、管財事件の場合には免責不許可事由が存在するケース(ギャンブルや浪費が破産の原因となっているケース)もありますから、免責が不許可となる可能性もあります。

こうした場合には、借金は帳消し(正確には「取り立てが出来ない状態」)とはなりませんから、弁護士等と相談して個人再生や任意整理など、別の道を探って行くこととなるでしょう。

因みに、ここまでのご説明からもお判り頂けたことと思いますが、管財事件の場合は手続きも煩雑な上、管財人の報酬負担などもあって、かなり高額な費用が発生することになります。

また、破産となるまでの期間も1年以上掛かるケースも普通に存在しますから、手続きを行うには「それなりの覚悟」が必要となるはずです。

 

破産のメリット・デメリット

これまでの解説で、自己破産のシステムや手続きに関する事柄はご理解頂けたことと思いますので、ここからは破産のメリット・デメリットについて解説して参りましょう。

 

破産のメリット

破産最大のメリットは、全ての借金が免責されることとなります。

また、破産の手続きが開始されれば、債権者からの督促も止まることになるでしょう。

なお世間では、「破産すると容易に社会復帰が出来なくなる」なんてことも言われていますが、金融会社が共有している信用情報のブラックリスト入りも10年以内には解除されますし、7年後には再度の破産も可能となりますから、社会的な制裁はそれ程厳しいものではないはずです。

 

破産のデメリット

続いて、破産のデメリットをご紹介して参ります。

まず最大のリスクと言えば、手持ちの資産のほぼ全てを失うことになるという点でしょう。

また破産手続きが開始されても、自宅に抵当権が設定されている場合などには、競売に掛けられてしまう可能性がありますし、借入れの契約に連帯保証人が擁立されている場合には、本人への取り立てが出来ない分、保証人への督促が開始されることとなります。

その上、破産したことが官報に掲載されれば、周囲の人間に自分が破産したことを知られる可能性はゼロではありませんし、会計士や宅地建物取引士等の士業や、金融関係、警備関連の仕事には就けなくなりますから、職を失う可能性も出て来るのです。

更には、税金の滞納や養育費、自分に重過失のある事故の賠償金の支払いなどについては、免責が許可されても適用除外となります。

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破産手続きの流れまとめ

さてここまで、破産手続きに関して解説を行って参りました。

「破産」という言葉の重みから、『どんなに苦しくても、破産は出来ない』と考えだった方にとっては、少々肩の荷がおりた気分になられたのではないでしょうか。

但し、デメリットの部分でもお話した通り、それなりの代償も支払うこととなりますから、ご自身のライフスタイルや家族のこと、そして未来のことを充分に考えた上で、この制度を利用するべきかのご判断をお願い出来ればと思います。

また、破産以外にも個人再生任意整理特定調停などの方法で、借金を整理することも可能ですから、お困りの際は弁護士などの相談してみるのが得策でしょう。

ではこれにて、「破産手続きの流れを解説致します!」の記事を締め括らせて頂きたいと思います。

 

 

参考文献

弁護士法人ベリーベスト法律事務所著(2016)『自己破産と借金整理を考えたら読む本』日本実業出版社 181pp ISBN978-4-534-05424-1

藤田裕監修(2010)『図解とQ&Aでスッキリ!クレジット・サラ金の法律と実践的解決法』三修社 238pp ISBN978-4-384-04360-0

 

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