特定調停とは

 

人間誰しも「楽しく豊かに暮らして行きたい」と願うものですが、人生には様々な危難が待ち構えており、末永く幸せに暮らして行くのはなかなか困難なものです。

人間関係のトラブルに巻き込まれたり、事故に遭ったりと、直面する問題も様々ですが、自ら招いてしまう不幸の代表格と言えば「借金問題」に他ならないでしょう。

足りないお金を軽い気持ちで借りたつもりが、気が付けば雪だるまのように借金が膨らんでいたなんてお話は、今時珍しくもありませんよね。

そして返済に追われ、次々に借入先を増やしていく自転車操業状態になってしまえば、もはや自力で借金を返すことは非常に困難な状況となってしまうはずです。

こうした場合、借金整理の方法として自己破産個人再生任意整理などの方法が知られていますが、実はもう一つ「特定調停」なる制度があるのを皆様はご存じでしたでしょうか。

そこで本日は「特定調停とは?という疑問にお答えします!」と題して、この借金整理の方法について解説してみたいと思います。

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特定調停って何?

冒頭でもお話した通り、借金整理の方法としては自己破産に個人再生、任意整理などが知られていますが、この特定調停という制度は少々マイナーなものとなるかもしれません。

ご存じの方も多いとは思いますが「調停」とは、裁判所にて申立てを行うことが出来る紛争解決手段の一つとなります。

裁判所で行うと言うと、裁判と同じようなものと思われてしまいがちですが、調停はあくまでも話し合いの場となっており、申立てを受けた案件に相応しい専門家と裁判官、そして紛争の当事者同士が集まって「揉め事の解決」に向けて話し合いをしていくのです。

こんなお話をすると「話し合いなんかで揉め事が解決出来るの?」という疑問を持つ方もおられるかもしれませんが、調停が合意に至った場合には調停調書という文書が作成され、この調書は裁判の判決と同じ効力を持つことになりますから、調停のみで紛争が解決してしまうことも珍しくはありません。

また調停を申し立てられた相手方は、理由もなく調停への参加を拒むことは許されず、場合によっては科料10万円という罰に処せられることもありますから、話し合いに応じてもらえないということもないのです。

さて、そんな調停制度の一種として平成12年に誕生したのが、この特定調停と呼ばれるものとなります。

当時は消費者金融などの激しい取り立てが社会問題にもなっていた時期ですから、司法も新たな借金問題解決の場を作るべく、この調停を新設したのです。

よって特別調停は借金問題を専門に扱う調停制度となっており、専門家や裁判官が当事者の意見を聞きながら、利息の減免や毎月の返済額の値下げなどについて話し合うことになります。

なお多くの場合、お金を借りている相手はプロの金融屋さんとなるでしょうから、そう簡単にこちらが提示する条件を呑んではくれなさそうですが、特別調停では17条決定という制度があり、交渉が決裂してしまいそうな時には裁判官が職権で合意条件を決定することが出来るのです。(但し、2週間以内なら異議申し立てが可能)

 

特定調停の必要書類

ここまでの解説を聞き、特定調停に興味を持たれた方も多いのではないでしょうか。

但しこの特定調停は、裁判所が定める制度だけに申立てについても厳格なルールが定められています。

そこでまずは、申立てに必要な書類をご説明して参りましょう。

  • 特定調停申立書
  • 財産の状況を示すべき明細書
  • 関係権利者一覧表
  • その他の資料

以上の4点が申立てには必要となります。

 

特定調停申立書

何やら非常に書くのが難しそうに思える書類となりますが、実は意外にすんなりと書けてしまう書式となります。

雛形は裁判所のホームページなどから気軽にダウンロード出来ますし、記載する内容も自分のデータと債権者(お金を借りている相手)の情報を書き込む程度です。

また申立て内容については、該当事項に「レ点」を入れるだけですから、それ程手を焼かずに書き上げることが出来るでしょう。

なお、債権者が法人の場合には資格証明書が必要となりますから、法務局などに出向いて取得した上、申立書に添付することになります。

 

財産の状況を示すべき明細書

正式には「財産の状況を示すべき明細書その他特定債務者であることを明らかにする資料」という名称の書式となります。

長々とした名前が付いた書式となりますが、実際はA4一枚の雛形です。

記載する内容は、改めて申立て人の住所や氏名の他に、収入状況や勤め先、貯金額や所有する不動産などを書いて行きます。

なお特定債務者とは、借金の返済が不可能となった者のことを指す言葉となりますから、特定調停を申し立てた段階で申立人は「特定債務者」となるのです。

 

関係権利者一覧表

そして最後が、誰にいくらの借金があるのかを一覧表にする書式となります。

記入漏れや借入額の誤りが無いように、神経を集中させて書面作成に取り組みましょう。

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特定調停の流れ

では申立て書類が整ったところで、具体的に手続きの流れをご説明して行きましょう。

申立て書類の持ち込み先は、借金をしている先(債権者)の会社がある場所を管轄する簡易裁判所となります。

複数の相手からお金を借りているケースでも、一つの簡易裁判所が引き受けてくれる場合もありますから、まずは窓口で問い合わせてみましょう。

申立てが完了すれば、裁判所から債権者に連絡が行くことになりますので、この段階で一旦督促の連絡などは停止することになります。

また特定調停が開始されると、債権者からの強制執行や抵当権が付けられた不動産の競売なども出来なくなるルールです。

そしてその後は、まず事情聴取期日というイベントが行われます。

ここでは裁判所が申立人のみを呼出され、先に提出された財産の状況を示すべき明細書等の内容を元に、借金が返せなくなった経緯などについて質問を受けることになるでしょう。

こんなお話を聞くと「債権者に事情を聞かないで良いの?」という気もして来ますが、実は申立てが行われた段階で、債権者に対しては借入金の総額や契約書などの提出を求めていますから、裁判所側は既に事の次第をおおよそ把握しているのです。

なお、この事情聴取期日が終了すれば、次は調整期日と呼ばれる申立人と債権者の双方が出席する話し合いの場が持たれます。

但し、申立人の立場を配慮して、債権者と直接顔を合わせるようなことはありませんので、その点はご安心下さい。

こうして調整期日での話し合いが合意に至れば、その合意内容を調停調書に記録した上で、利息がカットされたり、月々の支払額が減額された借金の返済を、申立人は続けて行くこととなるのです。

因みに調停が不調に終わった際には、裁判官によって17条決定という一定の合意案が示され、債権者に異議がある場合には2週間以内の申し立てるすることになりますが、ここで異議を申し立てる者は殆どおりません。

しかしながら時には解決に至らない場合もありますから、こうした場合には自己破産や個人再生へと、手続きを進めて行くことになるでしょう。

 

特定調停のメリット・デメリット

特定調停調停の流れについては、前項でご理解頂けたことと思いますので、ここでは特定調停のメリットとデメリットを比較して行くことに致しましょう。

 

特定調停のメリット

特定調停の最大のメリットとなるのは、やはり借金の利息の一部が免除されたり、今までカツカツだった支払いが3年払いや5年払いという余裕のあるものへと変更される可能性がある点です。

また、他の借金整理手段となる自己破産や個人再生、任意整理などが「弁護士等の専門家に依頼せざるを得ない」のに対して、特定調停は個人が自力でも行える点となります。

もちろん、敢えて弁護士を代理人とすることも可能ですが、自分の力ので調停を申し立てる方も多く、この場合には手続きに掛かる費用を非常に安価に抑えられるでしょう。

なお調停の申立て後は、督促が止まり、強制執行などに怯える必要がなくなることは前項でもお話した通りです。

因みに特定調停を行ったとしても、国が発行する冊子である官報などに名前が載ることはありませんので、この点もご安心下さい。

 

特定調停のデメリット

ではメリットに続いて、デメリットもご説明しておきましょう。

まず言えることは、特定調停で得られる借金整理の効果は、他の手段よりやや心細いものであるという点です。

「自己破産」であれば借金は免責となりますし、「個人再生」であれば最大で借金を10%(0になる場合もあります)まで圧縮できます。

また、弁護士などが直接債権者との示談に臨む「任意整理」では、過去に遡って利息分の支払を免除してもらえたり(特定調停では過去の金利は免除されない)、過払い金と呼ばれる支払う必要のない高金利分を取り戻す(特定調停では残債との相殺は出来ても、取戻しは出来ない)ことが可能です。

よって費用や時間は短縮出来るものの、特定調停はやや効力が低いものとなってしまっているのです。

更には調停が合意に至った場合、支払いの回数や金額が決まりますが、万が一この約束を破った場合には、調停調書が判決文と同等の効力を持つだけに、債権者は一気に強制執行などを行うことが可能になってしまいます。

なお、メリットにて官報には載らないとは申し上げましたが、金融機関が共有する信用情報にはブラックリスト扱いで登録されてしまいますから、その後数年間は借金を行うことはできないでしょう。

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特定調停とは?まとめ

さてここまで、特定調停という借金整理の手法について解説を行って参りました。

そして特定調停という制度を一言で総括するとすれば、「借金整理の手段としてはやや効力の弱いものであるが、魅力は手続きの手軽さと費用を抑えられる点である」と言った感じになるのではないでしょうか。

もちろん利用する方の置かれている状況次第では、非常に有効な借金整理の方法と成り得ますが、費用こそ掛かるものの任意整理の方が効果的なケースも多いので、目先の費用面に囚われることなく、賢明な判断を下して頂きたいと思います。

ではこれにて、「特定調停とは?という疑問にお答えします!」の記事を締め括らせて頂きます。

 

 

参考文献

弁護士法人ベリーベスト法律事務所著(2016)『自己破産と借金整理を考えたら読む本』日本実業出版社 181pp ISBN978-4-534-05424-1

藤田裕監修(2010)『図解とQ&Aでスッキリ!クレジット・サラ金の法律と実践的解決法』三修社 238pp ISBN978-4-384-04360-0

 

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