昨日まで他人であった者同士が、一瞬にして家族となることが出来る素晴らしい制度が「結婚」です。
愛し合う者同士が肩を寄せ合い、温かい家庭を築いて行くにあたり、結婚という制度は無くてはならないものとなりますが、そのカップルが再び他人に戻ることとなれば、そこには様々なトラブルが付き纏うことになります。
「離婚する」というだけでも、どちらか一方が承諾しない場合には、これを説得するのは相当な労力を要するでしょいうし、時には家庭裁判所へ調停や審判を依頼しなければならないこともあるでしょう。
また、どうにか離婚に漕ぎ着けたとしても、財産の分配に慰謝料、子供が居るならば養育費の支払い条件など、取り決めるべき問題は山積していますから、そう簡単に決着を付けることが出来ないのが現実です。
そこで本日は「離婚の慰謝料・養育費、財産分与について」と題して、各費用の特性や相場などを家庭裁判所の判例を基に解説して行きたいと思います。
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離婚に際して請求できる費用
さて、早速離婚に係る費用についてご説明して行きたいと思いますが、身の回りにいる離婚経験者などにお話を聞くと、「●●●万円慰謝料を貰って離婚した」といったコメントを耳にすることが多いはず。
これは我が国において、離婚に関する費用をまとめて「慰謝料」と表現する慣習があることによるものと思われますが、実際に裁判所が支払い命じる費用には、慰謝料・財産分与・養育費の三種が存在しています。
ではこの三つの費用について、詳細な解説を行って参りましょう。
慰謝料
先程も申し上げた通り、離婚と聞けば「慰謝料」という言葉が頭に浮かんで来るものですが、実はこの慰謝料という言葉は、「何かしらの損害を受けた者が、加害者に対して請求できるもの」というのが法律的な解釈となります。
交通事故を例に挙げれば、怪我を負わされた被害者が加害者に対して請求を行うのが慰謝料となる訳です。
では、これを踏まえた上で考えてみたいのが、ある男性がその妻に嫌気が差し、離婚を申し出た場合に、「その妻を被害者ということが出来るか」という点でしょう。
その答えは「被害者には当たらない」というのが正解になります。
仮に男性が「浮気をしていた」、「妻に対して暴力を振っていた」というのであれば、そこに民法上の不法行為が成立しますから、慰謝料の支払い義務が発生しますが、単に「お前が嫌いになったから別れたい」というのでは、慰謝料は認められないのです。
実際に、家庭裁判所が発表している統計を見てみても、裁判所を通して離婚が成立したカップルの4割が「慰謝料なし」という結果になっていますから、「離婚=慰謝料というイメージ」と「現実」にはかなりの落差があるといえるでしょう。
そして、ここで気になるのが、浮気などの不法行為が存在し慰謝料を請求できる場合には、 「どれくらいの金額が相場となるか」という点です。
テレビの情報番組やネットなどでは、「300万円~400万円が慰謝料の相場」という情報を目にすることが多いと思いますが、実はこの金額は裁判所が発表した統計資料を基にした「単なる平均価格」に過ぎません。
よって慰謝料が1000万円のカップルもあれば、100万円以下の夫婦も混在しており、純粋に平均を出せば「300万円~400万円」という金額になるというだけのことなのです。
また、婚姻期間が長いカップル程、慰謝料の価格は高額となる傾向がありますが、離婚となる確率は結婚後1年~3年のカップルが圧倒的に多いのが現実ですから、これらの若い夫婦が平均を引き下げているのも、また事実と言えるでしょう。
もちろん、慰謝料の金額は相手が行った不法行為の重大さや加害者の経済状況、そして裁判官の判断で大きく変動しますから、確定的なことは申し上げられませんが、婚姻年数別の慰謝料支払い額の統計を基に判断すれば、結婚後20年以上の夫婦なら600万円~700万円、結婚後10年前後で400万円~500万円、1年前後100万円~200万円というデータがありますから、単純な全体の平均値よりは現実に近い参考資料になるかと思います。
財産分与
さて、次にご紹介するのが財産分与という費用になります。
こちらは、「夫婦二人で築いた財産を離婚に際して均等に分配しよう」という制度になりますから、基本的には全ての離婚案件にて認められる費用です。
こうしたお題目ですから、慰謝料の様なペナルティー的要素は存在しないはずですが、実際の判決などを見てみると「離婚を申し出た側がより多い負担を求められるケース」が多く、慰謝料が取れない場合の「補填的な役割」を担う側面もある模様。
なお、相場については夫婦が有する資産を1/2ずつ分けるというのを前提にしつつ、先に述べた様な夫婦の事情に考慮して金額が決定されます。
また、これは有名なお話ですが、夫がサラリーマンで妻が専業主婦の場合でも、「妻が家庭を支えるために行ってきた努力」は夫の労働と同等に評価されることが多く、妻が働いていないという理由だけで財産分与の取り分が極端に減額されることはありません。
但し資産の中には、夫が親族より相続した不動産や、妻が自力で行った株式投資の収益など、夫婦の協力とは無関係なものが存在するのも現実ですよね。
この様な「協力関係なしに築かれた資産」については、裁判所も財産分与の対象としないのが通常です。
養育費
そして最後にご説明するのが、養育費と呼ばれる費用です。
その名の通り、子供を養育するための費用となりますから、子供が居ない夫婦の離婚では養育費が問題となることはありません。
また養育費と聞くと、親権を母親が取り、父親が養育費の支払いを続けるというパターンが殆どですが、父親が親権を得て、母親が養育費を支払い続けるケースも存在しています。
なお、慰謝料や財産分与とは異なり、原則子供が成人するまでの期間は支払いを続ける費用となるでしょう。
離婚の協議に際して、支払う養育費を取り決めた後は、所定の額を支払い続けることとなりますが、例えば養育費を支払う側の夫が再婚して新たな子供が出来た場合や、仕事をクビになり収入状況に大きな変化が生じた場合などには、裁判所に申し立てることで養育費の減額が認められる可能性もあります。
但し、養育費は親が子供に対して当然支払う費用と定義されていますから、支払いを免除されることは殆ど無い上、仮に親権を持つ妻がお金持ちの男性と再婚した場合でも、減額が認められる可能性はあるものの、支払いは続けることになるでしょう。
さて、ここで気になるのが、養育費の相場についてということになるでしょうが、この費用については一定の基準が提示されています。
これは「簡易迅速な養育費の算定表」と呼ばれるもので、裁判官などが中心となり、過去のデータを研究・検討して上で発表された資料となり、実際の裁判においても参考にされている資料となりますから、私たちが養育費の相場を知る上でも重要なデータとなるはずです。
この算定表では、養育費を支払う側、受け取る側の年収を基に、子供も年齢や人数など様々な条件での算定が可能になっていますから、ご興味をお持ちの方は是非ともご一読頂ければと思います。(家庭裁判所のホームページなどから閲覧が可能です)
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払ってもらえない時の対応
ここまでのお話で、離婚に際して取り決めなければならない、慰謝料・財産分与・養育費の特性や相場についてはご理解頂けたことと思います。
そして離婚する相手とこれらの費用の交渉をし、合意に至れば「めでたし、めでたし」となる訳ですが、相手が約束を守ってくれなければ意味がありませんよね。
そこでこの項では、離婚した相手方が約束を守ってくれない場合の対処方法をご紹介して参ります。
家庭裁判所の調停や審判を経ている場合
相手方が約束を守らない場合の対処方法は、家庭裁判所の調停等を経ているか否かで、手続きが大きく変わって来ます。
まずは調停・審判がある場合から解説して参りましょう。
家庭裁判所の調停で決められた内容は、調停調書として公式な記録が残されますし、その効力は裁判で得た判決と同様のものになります。(審判も同様)
よって、調停・審判で合意した内容を相手が守らない時は、 裁判所に申し立てるだけで、様々な措置が可能となるのです。
最も簡単な方法としては、裁判所に相手を呼出してもらい、支払いなどの勧告を求めるというもので、これに従わないようなら相手方は10万円以下の過料に処されることになります。
また、強制執行の手続きを行えば、相手の給料や預金口座を差押えることも出来るでしょう。(詳細については過去記事「強制執行とは?という疑問に解り易くお答えします!」をご参照下さい)
当事者同士で合意している場合
次に裁判所を通さず、当事者で合意している場合についてお話しましょう。
裁判所が関与していませんから、前項で述べた様な国家権力による勧告や請求は簡単に行えませんから、合意する段階でしっかり保全策を講じておくのが得策です。
例えば、養育費以外は分割払いを認めず、現金で一括払いを求めるというのも方法ですし、約束をしっかりと協議書などの文書に残しておくべきでしょう。
また、大きな街にある公証人役場という機関で作成出来る、公正証書という公文書で合意書を作るというのも、非常に有効な手法です。
公正証書で作成された文章は、強い執行力を有することとなりますから、相手が約束を破った場合には、判決等が無くても簡単に強制執行を行うことが出来ます。(詳細は「公正証書とは?という疑問にお答えします!」の記事をご参照下さい)
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慰謝料・養育費・財産分与等まとめ
さてここまで、離婚に際して取り決めなければならない、慰謝料・養育費・財産分与等の費用について解説して参りました。
離婚という局面を迎えている以上、相手に対して強烈な負の感情を抱えながらの交渉となりますから、これらの交渉は精神的にかなりハードはものとなるはずです。
またその中でも、養育費は罪のない子供の生活に直結するものとなりますから、「相手は憎いが、子供は可愛い」という矛盾した感情とのせめぎ合いともなることでしょう。
こうした意味でも、離婚に係る費用は双方にとって人間力を試される交渉となるはずですから、後悔のない取りまとめをお願いしたいところです。
ではこれにて、「離婚の慰謝料・養育費、財産分与について」の記事を締め括らせて頂きたいと思います。
参考文献
自由国民社編(2015)『夫婦親子男女の法律知識』自由国民社 472pp ISBN978-4-426-12069-6
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