遺族の手続きと法律

 

人生で経験する最も悲しい出来事と言えば、愛する方々との永遠のお別れですよね。

親しい友人や、恩人との別れは非常に辛いものがありますが、あらゆる意味で特別なものとなるのは、やはり家族を失った時でしょう。

幼い頃より親しんで来た肉親とのお別れは、精神的に凄まじいストレスとなるはずですから、これだけでも体調を崩してしまう方もおられますが、その後に続く様々な手続きやセレモニー、そして相続などのイベントを考えると、それだけでも気が遠のいてしまいそうです。

そこで本日は「遺族の手続きと法律知識をお届け致します!」と題して、送り人の方々に是非知っておいて頂きたいお話をさせて頂こうと思います。

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行政で行う手続き

愛する親族が亡くなった際には、泣き崩れてしまったり、呆然と立ち尽くしてしまう方が殆どでしょうが、その後を取り仕切る立場の方には、その直後から行うべきことが待ち構えています。

そしてまず行うべきは、市区町村など行政への届出となるでしょう。

戸籍法86条及び87条では、人が亡くなった場合、7日以内に死亡届を行政の窓口に提出することを義務付けています。

こうしたお話をすると、「こんな非常時に、7日も余裕がある届出なんかしている場合なの?」と思われるかもしれませんが、この死亡届を提出しなければ火葬許可証や埋葬許可証といった必要不可欠な書類を入手することが出来ないのです。

なお、病院などには死亡届と必須の必要書類である死亡診断書がセットになった書式が用意されている上、記入こそ親族が行わなければならないものの、提出は葬儀屋さんが代行してくれるのが通常となります。

因みに死亡届が提出されると、故人の住民票は自動的に抹消扱いとなりますが、次の世帯主を届け出なければならい場合もあります。(世帯に15歳以上の者が2人以上いる時)

さて死亡届の提出が済み、火葬許可証や埋葬許可証が受け取れたなら、火葬終了時に火葬許可証への証明印、埋葬終了時に埋葬許可証への証明印を押してもらうことで手続きは終了となるのです。

但し、ここまで記した手続きはあくまで最低限のものであり、他にも「年金受給の停止」や「介護保険」に関する手続きが必要となります。(これらは落ち着いてからもで間に合いますが)

 

お通夜やお葬式でのトラブル

さて、行政上の手続きに続いては、お通夜やお葬式といったセレモニーに関する法律問題を解説して参ります。

 

故人の口座が凍結された

お通夜やお葬式といったイベントでもお金のトラブルは付き物です。

まずありがちなのが、故人の銀行口座が凍結されてしまうというトラブルとなります。

葬儀費用などを故人の銀行口座から引き出そうとすると、既に口座が差し止めを受けており、遺族がお金を受け取れないといったケースは良く耳にするのではないでしょうか。

こんな時には思わず「銀行は酷い!」なんて気持ちにもなってしまうものが、こうした措置は口座にある相続財産を守るために行わるものですから、事前に葬儀費用などはしっかり用意しておくのがベストです。

なお、凍結された口座は相続人全員が署名捺印を行った遺産分割協議書を提示することで、該当する相続人による引き出しが可能となります。

 

葬儀費用について

お金のトラブルと言えば、葬儀費用などに関するものも多い様です。

悲しみに暮れる中、葬儀の一切を葬儀屋さんに任せたところ、法外な費用を請求されたなんてケースは、現在非常に増えているとのこと。

忙しさと悲しみに神経を擦り減らした状況ではあるでしょうが、見積書などは必ず提出させるようにしましょう。

 

香典等のトラブル

葬儀などでは、弔問客が香典などを持って来るのが常ですが、時にはこうした金銭を巡って相続人同士の争いに発展するケースもあるようです。

因みに最も揉めることが多いのは、「香典を相続財産としてみなすか、みなさないか」といった内容なのですが、判例によれば香典は葬儀費用などに充当する金銭とみなされますから、相続財産とは扱わず、喪主が受け取るべしと判断しています。

なお、故人が会社などに勤めていた場合、企業から弔慰金などが支払われることがあります。

通常弔慰金は、故人が支払われる相手を指定している者ですが、こちらも相続財産とは考えないのが裁判所の見解です。

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相続について

では最も問題になりやすい相続に関するトラブルについてご説明して行きます。

 

愛人の問題

滅多にあることでは無いでしょうが、葬儀の席に故人の愛人が現れたりする場合もあるようです。

もちろん大人しく会葬してくれるだけなら問題はないのですが、相続などを話を持ち出されると非常に厄介でしょう。

まず結論から申し上げれば、当然ながら愛人には相続人としての資格はありません。

中には「内縁関係にあった」なんて主張をして来る方もおられる様ですが、配偶者がいる場合に内縁関係とみなされるケースは殆どありませんし、例え内縁関係と認められた場合でも相続権は発生しないのです。(詳細は別記事「内縁関係とは?という疑問にお答えします!」をご参照下さい)

また、時折耳にするパターンとしては「故人から月々お金をもらっていて、その費用を請求しに来た」というケースや、「家を上げる等の約束をしていた」という主張をしてくる場合もあるようです。

月々の御手当については、「公序良俗に違反した契約」となりますから法律上支払いの義務はありませんし、家をもらう約束についても、書面によらない贈与契約は何時でも破棄出来る上、破棄する権利も相続人が受け継ぐことになりますから、その場で破棄すれば問題はありません。

但し、遺言書に愛人へ資産を遺贈する旨が記されていたり、既にマンションを故人に買ってもらって住んでいるような場合は、これに抗うのは難しいケースが多いでしょう。

 

隠し子の問題

愛人が登場するのであれば、隠し子を名乗る者が現れるケースもあるでしょう。

但し、愛人の場合とは異なり、隠し子のケースでは少々厄介な問題が存在します。

まず問題となって来るのは、「その隠し子が本当に故人の子供であるか」という点でしょう。

全ての事情を知る本人が亡くなっている以上、確認のしようも無いように思えますが、民法は子供の認知について、親が亡くなっても3年間は申し立てを行うことを認めているのです。

こうしたケースでは、故人の代わりに検察官を相手に手続きを進めることになりますが、家庭裁判所が「認知すべし」との判断を下せば、隠し子は正式な相続人として扱われることになります。

なお、例え認知を受けても非嫡出子という立場に代わりはありませんが、相続の取り分については嫡出子と変わりないものが与えられることになるのです。

 

遺産分割と遺言書

そして最も大きなトラブルとなるのが、遺産分割と遺言書の問題です。

我が国では、相続権のある者に「法定相続分」という法律が定めた財産の取り分が用意されていますが、どの財産を誰が相続するかなどは、相続人同士で話し合って決める他はありません。(詳しくは別記事「相続の順位や割合について解説!」をご参照下さい)

また、故人(被相続人)が遺言書を遺している場合には、これに従うこととなるのですが、注意しなけれならない点も数多くあります。

詳しくは別記事「遺言書の種類と作成方法などを解説致します!」「遺言書の効力と内容について解説致します!」にてご説明していますが、遺言書を発見した場合には、その場で開封(封印されている場合には)を行わずに家庭裁判所に持ち込んで、検認を受けなければなりません。(公正証書遺言書の場合は不要)

そして遺言の内容に、他の相続人の遺留分(例え遺言があっても保護されるべき財産の取り分)を侵害する内容が含まれている時には、改めて協議が必要となりますし、時は訴訟に発展するケースもあるのです。

遺産分割は何かとトラブルの多い分野となりますから、故人を悲しませないためにも根気良く話し合いを続ける必要があります。

 

形見分けや仏具

家族が亡くなった際には、「形見分け」や「仏壇・お墓を誰が守っていくか」なんて問題も発生するものです。

前項では相続についてお話致しましたが、こうした形見分けや仏具の類は、相続財産の一部として扱われるのでしょうか。

結論から申し上げれば、原則、これらは相続財産に含まないというのが裁判所の考え方となります。

但し形見分けに関しては、転売して価値がある物品については、相続財産に含むという判例もありますから、渡す場合も貰う場合も慎重を期するべきでしょう。

また代々続く旧家などでは、価値のある仏像などを仏具として受け継いでいる場合もあるでしょうが、基本的に仏具に関しては相続財産とは考えないものとされているのです。

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遺族の手続きと法律知識まとめ

さてここまでお葬式などに際して、残された遺族に降り懸かって来る法理問題について解説して参りました。

家族を失うことは、耐え難い苦痛であることは間違いありませんが、こうした不幸に乗じて利益を得ようとする輩が存在することも事実ですから、辛い気持ちをグッと堪えて、毅然たる態度で対処するようにして下さい。

亡くなった方を送り出すのが遺族の務めですから、こうしたトラブルの解決も供養の一環としてスマートにこなしたいところですよね。

ではこれにて、「遺族の手続きと法律知識をお届け致します!」の記事を締め括らせて頂きたいと思います。

 

 

参考文献

自由国民社編(2015)『夫婦親子男女の法律知識』自由国民社 472pp ISBN978-4-426-12069-6

 

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