世間の方々に「この世で一番くつろげる場所は?」との質問をぶつけた際、最も多く返って来る答えは「自宅!」というものであるでしょう。
確かに自宅は生活の基盤となる場所ですから、仕事の疲れを癒し、明日への活力を養う「楽園」であるべきです。
しかしながら、そんな「自宅の平和を乱す者」は確実に存在しており、その代表例とも言えるのが、押し売りや悪質な訪問販売を行う者たちとなるでしょう。
そこで本日は「押し売りに関する法律問答をお届け!」と題して、自宅にやって来る悪徳セールスマンに関する法律知識をお届けしたいと思います。
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押し売り行為とは
近年では、「押し売り」という言葉を聞く機会もかなり減った印象を受けますが、世間にはまだまだ「悪質な訪問販売」の事例は少なくありません。
ひと昔前の押し売りと言えば、無理やりドアを開けさせ、玄関先に腰かけて強引な販売活動を行うという手法が王道でした。
また中には、「自分は刑務所から出て来たばかりだ!」なんて脅し文句を振りかざす者や、「服の下の入れ墨をこれ見よがしにアピールする」なんてパターンも多かった様です。
もちろん最近では、ここまで露骨な手段を講じるパターンは少なくなっている様ですが、何度断って諦めずに居座り続ける者や、明らかに胡散臭い商品を必死で売り込んで来るセールスマンは、まだまだ存在する模様。
そして、こんな連中が頻繁に訪ねて来るのでは、折角のくつろぎの場である自宅の平和は台無しにされてしまいますし、家の留守を守る身としても非常に不安ですよね。
そこで次項では、こうした押し売りや、悪質な訪問販売を取り締まる法律についてお話してみたいと思います。
押し売りを規制する法律
購入する意志の無い者の家に無理やり押しかけ、強引に商品を売りつけようとする輩は非常に腹立たしいものですが、こうした行為は「特定商取引法」や「迷惑防止条例」、場合によっては「刑法」での取り締まりを受ける可能性があります。
そこで以下では、各法律がどのように押し売り行為に規制を行っているかを見て行きましょう。
特定商取引法
特定商取引法は、その前身となる名称が「訪問販売法」であるからも判る通り、押し売りや悪質な訪問販売を取り締まるために作られた法律です。
その内容には、様々な訪問販売での禁止行為が規定されていますので、以下で主なものをご紹介して参りましょう。
訪問時に氏名や目的を告げる義務
特定商取引法3条では、訪問販売を行う業者に「会社名」、「勧誘目的」、「販売する商品」を告げることを義務付けています。
また、この告知は第一声にて行うルールとなっていますから、「無料点検です!」なんて嘘をついての訪問は、これだけで法令違反となる訳です。
因みにこの規定を守らない場合は、行政処分の対象となり、最悪は業務停止などの罰を受けるでしょう。
しつこい勧誘の禁止
続いて特定商取引法にて禁止されているのが、一度断ったお客に対して、繰り返しセールスを行う行為です。(3条の2)
但し、「一度断れた」というのがポイントとなりますから、訪問される側も『一度は断る意志を明確にする』ことが必要でしょう。
因みに、このルールを破った場合には、前項同様に行政処分の対象となります。
脅し・騙しの禁止
また当然ながら、お客を脅して商品を買わせようとしたケースや、嘘の説明で契約を締結する行為は厳しく禁じられています。(6条)
このルールを破った場合には、2年以下の懲役または300万円以下の罰金という厳しい罰を受けることになります。
因みに、商品や取引に関して重要な事項の説明が行われなかった場合には、お客には契約の取消権が与えられることになっており、その事実(騙された)に気付いた時から6ヶ月、若しくは契約後5年間はこの権利を行使することが可能です。
過剰に品物を売り付ける行為の禁止
なお、必要以上大量の品物をお客に売り付ける行為も規制の対象です。
具体的に「何を何個以上売ったら違反」とは、法律にも書かれてはいませんが、例えば『使い終わるのに1年掛かる洗剤を100個販売した』なんて場合は、この規制が適応される可能性が高いでしょう。
但し、この条文に罰則はなく、「お客さんは契約後、一年間に渡り解約が可能」とのルールが定められています。
契約書面の交付義務
更に訪問販売を行う業者には、お客に対して契約書面を交付する義務が課せられています。(4条・5条)
また、この契約書には商品の種類や対価、支払方法、サービスの提供時期など、記載事項についての細かな取り決めがなされており、これらのルールに違反した場合には、100万円以下の罰金という厳しい罰則が用意されているのです。
クーリングオフが可能な旨の告知と、これに応じる義務
過去記事「クーリングオフとは?消費者を守る法制度を解説!」でも解説致しましたが、訪問販売の契約に関しては、契約締結後8日の期間、クーリングオフが可能となります。
クーリングオフとは、読んで字の如く「頭を冷やして、考え直す」という意味で、この期間内なら買主から一方的な契約解除が出来るのです。
そして特定商取引法では、訪問販売業者にクーリングオフに応じることと、この制度が利用出来ることを告知することを義務付けています。
迷惑防止条例
なお押し売り行為は、迷惑防止条例でも規制対象となることが殆どです。
迷惑防止条例は、各道府県が独自に定めたルールとなりますから、地域によってその内容は様々となりますが、多くの行政が強引な訪問販売を禁じる条項を組み込んでいます。
例えば東京都であれば、「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」の6条にて、押し売りを禁止する項目が組み込まれており、脅しや座り込みを行った場合の罰則は、50万円以下の罰金または拘留若しくは科料に処されるといった具合です。
刑法による規制
ここまで「特定商取引法」や「迷惑防止条例」による押し売り行為の規制について解説して参りましたが、相手の行動が更にエスカレートすれば、刑法によって処罰される可能性も出て来ます。
脅すなどの手段を用いて、強引に契約を締結させれば「強要罪(3年以下の懲役)」に問われる可能性があるでしょうし、『契約しないと殴るぞ』なんて言葉を発したケースでは、例え契約をしなかった場合でも「脅迫罪(2年以下の懲役または30万円以下の罰金 )」が成立するはずです。
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多様化する押し売り商法
この様に押し売りという商法は、今や様々な法令にて罰せられる可能性を秘めた「非常にリスキー行為」と言うことが出来るでしょう。
しかしながら押し売りを行う事業者側も、こうした法規制を逃れるために、次々と新しい手段を編み出しています。
そこで本項では、近年増えつつある新手の押し売り商法をご紹介して参りましょう。
押し買い
「押し売り」が減少するのと同時に、増加を始めたのがこちらの「押し買い」なる商法であり、その概要は「突然自宅を訪問し、宝石や貴金属などを買い取らせてくれ」と迫る手法となります。
この方法であれば、「強引な販売」ではないため、特定商取引法の規制を逃れることが出来ますし、価値ある品物を強引に安く買い叩き、転売することで利益が得られるという訳です。
別名「訪問購入」とも呼ばれるこの手法は、法律の盲点を見事に付いた商法として大流行することとなりましたが、平成24年の特定商取引法改正により、押し売りと同様の規制を受けることとなりました。
当然、強引な勧誘は処罰の対象となりますし、契約書書面の交付にクーリングオフなども義務付けられることとなりましたので、前項での押し売り対策をそのまま応用して頂ければ、容易に対処出来るはずです。
但し、自動車や書籍など一部の品については、クーリングオフが不可となりますので、その点はご注意下さい。
電話による勧誘
電話を利用しての勧誘も、近年増えつつある押し売りのスタイルです。
電話会社の代理店を名乗り、「料金が安くなります」なんて電話は良く掛かって来るかと思いますが、こちらも特定商取引法の規制を受ける対象となります。
質の悪い業者ですと、電話会社自体の社名を名乗ったり、断っても何度も電話を掛けて来たりしますが、これは明らかに法令違反の行為となりますから、その旨をしっかりと指摘し撃退するのが良いでしょう。
押し売りへの対処方法
これまでの解説をお読み頂ければ、突然自宅を訪問した来た訪問販売員が強引な勧誘を始めた際にも、「法令に違反した勧誘には応じられない!」と毅然とした対応が行えることと思います。
しかしながら、業者の中にはそれでも引き下がらない強者が存在するようですから、そんな際には販売員に際して「退去命令」を出す手段が有効です。
こんなお話をすると、「そんなことをしなくて、警察に通報すれば良いのでは?」と思われるかもしれませんが、自分で訪問販売員を玄関に招き入れてしまった場合には、警察も取り締まりを行い辛いもの。
そこで便利なのが刑法130条に規定されている不退去罪となります。
不退去罪は、家人が退去を求めているにも係らず、これに応じない者に適応されるもので、違反した場合には3年以下の懲役または10万円以下の罰金という重いペナルティーを課されることとなります。
訪問販売員もある程度の法律知識は持っているはずですから、退去命令を出された段階で引き下がる者が殆どでしょうし、警察を呼んだ際もスムーズに対処してもらえるはずです。
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押し売りまとめ
さてここまで、押し売りに関する法律知識を解説して参りました。
これまでお話して来た知識を駆使して頂ければ、大抵の押し売りは撃退出来ることでしょう。
しかしながら、押し買いの例を見ても判る通り、訪問販売では次々に新手の手法が登場して来るのが常ですから、くれぐれも油断をなされないようお願い致します。
憩いの場であるマイホームを守るためにも、正しい知識を身に付け、厄介者たちに毅然とした態度で接する様に心掛けたいものです。
ではこれにて、「押し売りに関する法律問答をお届け!」の記事を締め括らせて頂きたいと思います。
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