少額訴訟とは

 

「訴訟をする!」と聞くと、最終的な判決が出るまで長い時間を要し、弁護士費用など多額な経費が掛かるというイメージがありますよね。

しかし近年では、裁判所側でも「如何にスピーディーに審理を進めるか」という問題に真剣に取り組んでおり、様々な制度の簡略化が行われていますが、取り扱う事件によっては未だに長期の裁判となってしまうことも多いようです。

そんな裁判の簡略化を目指して創設された制度の一つに、「少額訴訟」というものがあります。

法律系の話題を扱ったテレビ番組などを見ていると、「小額訴訟はとても手軽で、便利な制度ですから是非ご利用下さい」的なことが報じられていますが、この制度は一体どんなものとなるのでしょうか。

そこで本日は「少額訴訟とはという疑問にお答えします!」と題して、この制度の概要と、通常の訴訟との違いなどについてご説明してみたいと思います。

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少額訴訟はこんな制度

小額訴訟は、民事訴訟の中でも金銭の支払いなどに関する特定の事項、そして極小額な請求内容の事件において利用出来る、簡易的な裁判制度となります。

「簡易的な裁判」といえば、過去記事「裁判所の種類と特徴について」でご説明した簡易裁判所が頭に浮かぶかもしれませんが、簡易裁判所で取り扱われる裁判の請求内容が140万円までに限られているのに対して、小額訴訟の上限額は60万円までとなっていますから、簡易裁判所管轄の案件で、更に請求額が低額な事件について利用出来る裁判制度となります。

よって、申し立てを行うのは簡易裁判所に対してということになりますが、実はこの小額訴訟、問題解決の迅速化を図るために、通常の裁判制度とは様々な面で異なる部分を持っているのです。

この様にお話すると「そんなことを言っても、結局は裁判なんだから、面倒な手続きが多いのに変わりはないのでしょう」なんて声も聞こえて来そうですが、実際にその内容を見て行くと通常の訴訟との違いは非常に多く、中には弁護士を利用せず自力で訴訟を起こす方もおられますし、時間的にもかなり迅速な裁判が可能となっています。

そこで次の項では、小額訴訟の特徴を、通常の訴訟と比較しながらご説明して行きましょう。

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通常の訴訟との違い

では早速、通常の民事訴訟との違いについてご説明して参ります。

なお、通常の訴訟については過去記事「民事訴訟の流れを解り易く解説致します!」にて解説しておりますので、こちらと見比べながらお読み頂くと、更にその違いを実感して頂けるはずです。

 

裁判目的の絞り込み

冒頭でも申し上げた通り、少額訴訟は60万円以下の支払い請求でしか利用できない裁判制度となっています。

また金額のみならず、請求の対象についても制限を加えており、

  • 貸付金
  • 未払いの宿泊代や飲食費
  • 慰謝料
  • 物損事故の賠償金
  • 売掛金や請求代金
  • 敷金・保証金
  • 給料

など、裁判となるケースが非常に多い上、審理が複雑なものとならない内容に限られています。

 

原則・裁判は一回

また、少額訴訟の顕著な特徴となるのが、裁判は基本一回こっきりというシステムです。

「そんなんで真実が明らかになるの?」というお声も聞えて来そうですが、問題をお手軽に、そして迅速に解決するのが最優先の少額訴訟制度となりますから、ここは譲れないポイントと言えるでしょう。

但し、どうしても判断がつかない場合には、二回目の裁判が行わることもありますし、訴えられた側(被告)には、少額訴訟が開かれる前に「通常の訴訟へ変更できる権利」も与えられていますので、決して無理のある制度とはなっていないのです。

なお、判決に対して不服の申し立てがあった際には、同じ簡易裁判所での再審理を請求することが出来ますが、この結果に納得出来ない場合でも「上訴は出来ないシステム」となっています。

 

回数に制限

この様に非常に便利なシステムだけに、金融業を行っている方々などは頻繁に少額訴訟を利用することも珍しくありません。

但し、あまりに件数が増えてしまえば、結局は迅速な問題処理が出来なくなりますので、少額訴訟では一人あたり年間10回までという回数制限が設けられているのです。

因みにこの回数制限は自己申告制となっており、虚偽の申告を行った場合には罰則も設けられています。(10万円以下の過料)

 

訴状・答弁書の書き方が簡単

通常、民事訴訟を起こす場合には、訴える側(原告)は「訴状」を裁判所の提出し、訴えられてた側(被告)はその訴えに対する「答弁書(反論などを記した書面)」を提出することになります。

もちろん、この流れは少額訴訟でも同様なのですが、迅速で解りやすい裁判を目指すこの制度では、その書き方も非常に簡略化されたものとなっており、弁護士などの専門家に依頼せずとも、一般の方が自力で作成出来る内容となっているのです。

なお、通常の訴訟においては訴状の内容が法的にしっかりと構成されていることが求められますが、少額訴訟では丁寧に解り易く内容を記すれば、すんなり受理されることが多いでしょう。

 

居所の判る相手しか訴えられない

一般の民事訴訟では、例え相手の住所が判らなくとも公示送達(裁判所の掲示板に掲示して、法的に通知したものとする)という方法で、訴訟を起こすことが可能です。

しかしながら少額訴訟では、公示送達が認められていないため、住所の判らない相手に対して訴訟を起こすことが出来ません。

 

裁判の内容も簡易的

裁判が一日で完了する旨はお話しましたが、少額訴訟はその審理の内容も非常に簡易的なものとなっています。

裁判に備えて提出する証拠に関しても、取り調べが簡単なものに限られていますし、被告が原告を訴え返す「反訴」も認められません。

なお、簡易的と言いながらも「証人尋問」などは認められており、当時に証人が出席出来ない場合にはテレビ会議システムを利用することも可能です。

 

和解的な判決が多い

そして少額訴訟では、下される判決についても少々特徴的な傾向があります。

それは対立する原告・被告の意見に対して、和解的な内容を含む判決が成されることが多いという点です。

「相手を徹底的にやり込めてやりたい」と思う方には少々物足りないかもしれませんが、問題の即時解決を第一に考えておられる方にはメリットも多いことでしょう。

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少額訴訟まとめ

さて、ここまでお話して来た通り、「通常の訴訟」と「少額訴訟」では様々な違いがあるものです。

通常の訴訟はどうしても時間が掛かり過ぎてしまうために誕生した少額訴訟制度ですが、判決の効力は通常の裁判と変わらないものとなりますから、「訴える側」も「訴えられる側」もその特徴を充分に理解した上で、制度を利用していくことが大切でしょう。

但し、単なる代金の未払いなどならともかく、複雑な事情が絡むような案件では、迷わず通常の訴訟を選択するのが得策でしょう。

ではこれにて、「少額訴訟とはという疑問にお答えします!」の記事を締め括らせて頂きたいと思います。

 

 

参考文献

藤田裕監修(2015)『図解で早わかり 最新版 訴訟のしくみ』三修社 256pp ISBN978-4-384-04643-4

 

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